「警察沙汰になるとやっかいなので逃げましょう」

数分してママが戻って来ると、「ウチでは無理です」と言い出した。それからは、何を言っても「無理」の一点張りだった。明日にはヨーコも到着する。意外な展開に、正直困惑する。

八木澤高明『花電車芸人 色街を彩った女たち』(角川新書)

「安請け合いをしても、直前になって内容を確認してから急に態度を変えるのは、よくあることです」

この店を紹介してくれた友人が、バンコクでは珍しいことではないと、諭すように言った。

途方に暮れる私に、ママはほかの店を紹介すると言い出した。体良く追っ払いたかったのだろう。その店は、通りを挟んで向かいにある、薄暗いビルの中にあった。

そこで話をしてみると、芸の披露は可能だが、写真は絶対駄目だと言う。それではここまで私が来た意味がない。私はなんとか写真撮影も大丈夫になるように交渉することにした。ところが、交渉をはじめてすぐに店の客である白人と従業員が金の支払いでトラブルとなり、喧嘩がはじまってしまった。店の中は蜂の巣を突ついたような大騒ぎとなってしまい、交渉どころではない。

「警察沙汰になるとやっかいなので、ここは逃げましょう」

友人の忠告に従い、私たちは店を後にすることにした。

タイではどんな媒体でもストリップを紹介しない

2軒の店で断られ、企画の先行きがまったく見えなくなった。原因は、タイにおけるストリップの現状にもあった。日本でもストリップは非合法扱い(公然わいせつ罪を適用される)であるが、スポーツ新聞や雑誌で取り上げられるなど、黙認、半ば合法のようなものになっている。

一方、タイではストリップに関することは、どんな媒体であっても紹介されることはないという。言ってみれば、完全に非合法なのだ。そのため、経営者やストリッパーも、劇場の存在が公になることを極端に嫌がる。日本では、少なからず芸という空気をストリップはまとっているが、ここ、バンコクでは観光客向けの余興でしかないのだ。