加賀屋では各フロアのリーダーが集まる「リーダー会議」で140人の客室係の意思統一を図っているが、とりわけ重要視されているのは、宿泊客からのアンケート(マークシート式)をもとにした月に1度の「アンケート会議」だと彼女は言う。アンケートの数は年3万通。それを集計し、小さな点まで「改善」の目が行き届くように心がける。その結果は個人ごとに数値化され、フロアリーダーを通じて客室係へフィードバックされる。
若葉さんが付け加えた。
「例えば“非常口の案内があったか”という欄の点数が低かった場合、ご説明する声が小さかったのではないか、と当人に注意します。ただし、誰もいないときにそっと話しかけ、自信を失うことのないよう心がけています」
また、宿泊客からの「お褒め」や「お小言」などは、従業員用の廊下に常に張り出されてもいた。1年間に集められた具体的な情報は、「クレームゼロ大会」によって検証されるという。
女将の小田真弓さんは「お客様からのクレームは大事なもの」と語る。
「注意をしてくれるのは期待があるから。その意味で一番怖いのは、問題があっても何も言われずに帰られてしまうことです。そこには天国と地獄の差があります」
こうしたやり取りの繰り返しによって、客室からの声を無駄にしないという基本姿勢が共有されていくわけだ。
だが、加賀屋の「おもてなし」は、それだけではない。楠さんが続けた。
「もちろんマニュアルはありますし、それを守るのは大事です。ただ、“おもてなし”というものは、マニュアルをこなせて60点。それ以上はお客様と接する本人の感性次第です。その意識を全員が共有して初めて、積極的に前へ出て何かを言おうという雰囲気ができていくのだと思います」