既存の伝統を把握することから

まず、会社独特の伝統や、現在の文化の強みと弱みを理解することが大きな一歩となる。さまざまな部門の社員と1対1の議論をしてみる、もしくは、組織全体を調査しよう。そこにあるビジョンや価値観、創業者の知見などの「文化的アイコン」が、文化の一部をはっきり示していることが多い。

オーストラリアに本店を持つセント・ジョージ銀行の元頭取、ゲイル・ケリーは、2002年の着任時に、同社には顧客を大切にする強い伝統があることに気づいた。が、同時に、管理職が責任を負う体制ができておらず、部門間の協力体制も弱く、決定が遅いという弱点も見えてきた。支店の行員たちは、長年の顧客に新商品を勧めることはもちろん、新規顧客の紹介を頼むことさえ気まずいと感じていたのだ。

この銀行が財務実績を高めるためには、全社員が新規取引を増やし、多くの顧客獲得に責任を負う文化が必要だった。そこで、ケリーはまず、社内に新しい目標を設定した。

「当行は、お客様の金銭的な幸福度を高める製品やサービスを提供することにより、お客様の生活に価値を加える」というものである。

チームで目標を一致させよう

経営チームの目標を一致させることは、最も重要なステップの1つである。この過程はまず、管理職の率直な評価から始まる。新しい文化をどれくらい体現しているか、新しい習慣を採用できる可能性はどれくらいあるかといった点を経営側が評価するのだ。そのうち、管理職の一部を入れ替えなくてはならないと気づくこともあるだろう。さらに、各管理職に正しい価値観や行動の手本になる言動をとらせるべく、評価のフィードバックを行うのだ。

前述のケリーは、経営チームのメンバーが自分の部署に閉じこもり、互いに協力して収益を生み出すようなインセンティブはほとんどないことに気づいた。そこで、社内のリーダーが互いに協力するという目標を設定し、その文化を壊す幹部を組織から追い出した。

新しいチームは、自分たちがこの銀行に根づかせたい文化を全員で定義した。「お客様の金銭的なニーズ全般を理解し、それを満たすことに全力を傾け、互いに協力し、率先して動く組織」。この目標は、管理職によって組織に叩き込まれた。