ハイエンドとローエンドへの二正面作戦が必要

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化学産業4つの方向軸(フロンティア)

第三の軸は、地球温暖化問題への対応、化学物質安全管理の強化、安心安全の提供などからなる「サスティナビリティの向上」である。これらのうち、地球温暖化問題への対応に関しては、二酸化炭素原料化やバイオマス利用、エネルギー効率の向上、温室効果ガス排出抑制効果の高い製品による貢献などが重要である。また、化学物質安全管理の強化に関連して今回の化学ビジョン研究会報告書は、「化学物質管理制度のアジア標準化に向けたロードマップ」を示している。

第四の軸は、研究開発の強化、評価技術基盤(拠点)の整備、人材の育成などからなる「技術力の向上」である。これらに関連して化学ビジョン研究会報告書は、「化学分野における評価研究開発拠点整備に向けたロードマップ」と「化学人材育成プログラムへ向けたロードマップ」を提示している。

化学ビジョン研究会が打ち出した日本の化学産業が進むべき方向軸の大きな特徴の一つは、高付加価値化とボリュームゾーン攻略の二正面作戦を鮮明にした点に求めることができる。高付加価値化は第二の軸において、ボリュームゾーン攻略は第一の軸において、それぞれ明記されている。

高付加価値化がターゲットとするのはハイエンド市場であり、ボリュームゾーン攻略の対象となるのはローエンド市場である。これら両市場を同時に攻めることがいかに難しいかは、C・クリステンセンの名著『イノベーションのジレンマ』(伊豆原弓訳、翔泳社、00年)がすでに明らかにしたとおりである。

しかし、日本の化学産業が次のリーディング・インダストリーとなるためには、ハイエンド市場とローエンド市場とを同時に攻略する二正面作戦の展開が、必要不可欠である。なぜなら、ハイエンド市場を攻略することは、高付加価値化の果実を収益化するという課題を達成することと同義であり、ローエンド市場を攻略することは、事業規模の拡大という課題を達成するうえで避けて通ることのできない関門だからである。すでに述べたとおり、これら二つの課題を達成すれば、化学産業のリーディング・インダストリー化が可能になる。

困難な二正面作戦を遂行する担い手は、いうまでもなく、民間企業である各化学メーカーである。ただし、民の経営努力をサポートするという意味で、官の出番がないわけではない。官による制度的支援の内容としては、次の4点が重要である。