池袋まで一駅なのに家賃4万円台
都内の不動産屋をめぐること数軒、それらしき物件は3部屋だけ見つかった。
②女性2人が立て続けに洗面所で手首を切って自殺したマンション(豊島区・千川)
③入居者が4人連続で夜中にうなされ退去したマンション(豊島区・要町)
さて、どこに住むべきなのだろう。エピソードだけなら②がエグイのだが、自殺があったからといって、この後オレが住んだときに怪奇現象が起きるとは限らない。①然りだ。となると残るは③。この物件に関して不動産屋は、
「自殺などの事実はないですよ。ただ、入居した皆さんが言われるのは、うなされて寝れないとのことです」と言うのみだ。
原因はわからないが、何故かうなされる部屋。ちょっとおもしろいかもしれない。ひとまず内見に向かうとしよう。
有楽町線・要町駅から徒歩4分の場所に、その物件「豊島マンション(仮名)」はあった。
外観は至って普通のマンションだが、今回見にきた205号室だけが相場より2、3万円ほど安い4万円台となっている。言うまでもない、入居者が決まらないためだ。
カンカンと鉄製の外階段を上り、いざ部屋に。流しとユニットバスの付いた、5畳程度のワンルームだ。リフォームを終えた壁は真っ白で、窓は南向き。清潔感にあふれている。
窓の外は静かな住宅街で、スズメの鳴き声がするだけだ。不動産屋も、近くにうるさい住人がいるわけではないと説明する。
(この部屋にしよっかな。ちゃんと眠れそうだし)
内装工事は済んだのに電気カバーが割れている
晴れて契約を交わしたオレは、引っ越しの日を迎えた。友人に車を出してもらい、実家で荷物を積んでレッツゴー。豊島区に入って池袋を通過すれば、そろそろ要町だ。
しかし間もなくマンション付近というところで、友人が変なことを言いだした。
「あれ? おかしいなぁ」なになに? どうしたの?
「ナビが……」
「え?」
「狂っちゃってるのかな? さっきのとこ右に曲がったはずなのに」
助手席からナビの音量を上げると、無機質な声が何度も同じ文句を繰り返している。
『ルートを外れました。ルートを外れました』
入力した通りに走っているはずなのに。
「こんなこと今までなかったんだけどね」。試しにいったん要町を出ると、ナビは正常に作動した。
「やっぱりマンション付近がダメみたいだな。とにかく向かおうか」
なんとかマンションに到着し、荷物をそそくさと運び入れ終えたころには外が暗くなってきた。電気を点けようか。
ん? おいおい、蛍光灯のカバーが割れてるじゃねーか!
「内装業者がやっちゃったんじゃない?」友人はそう言うが、この部屋、オレが内見にくる数日前に、内装工事や清掃はすべて終わっていた。しかも内見当日に契約する旨を伝えたので、それ以降の侵入者がいるはずない。