あらゆる宗教を受け入れるために厳格なルールが定められている

そうした政教分離法(ライシテ)の精神に基づき、フランスでは2004年、公立学校においてイスラム教徒の女子学生が着用するヒジャブの着用禁止法が制定され、また、2011年には公共施設での着用も禁止する法律が施行されるなど、常に政教分離の議論が持ち上がる。法律では、電車、路上、公園、美術館などの公の施設で顔を覆うヒジャブの着用を禁じ、罰則も規定されている。

フランスは多くの難民を受け入れる寛容な国家である。その根底には、信教の自由を徹底して保障する体制がある一方で、あらゆる宗教を受け入れるために厳格なルールが定められているのである(建前の側面はあるが)。この法律は外国人旅行客にも適用されるというから、日本以上に政教分離の原則が貫かれていると言える。

そうした意味ではノートルダム大聖堂の復興に国家が関与していく方針は、「既存の宗教を守り、維持し、ひいては信教の自由を保障する」という理にかなったものという見方ができるだろう。一方で、教会の衰退が著しい同国にあって、ノートルダム大聖堂だけを特別扱いしているとの議論も今後、起きるかもしれない。

※写真はイメージです(写真=ullstein bild/時事通信フォト)

国宝や文化財に指定されていない有名な寺院や神社が炎上したら?

政教分離の議論が成熟していない日本では、たとえば同様の事態(建築物の炎上など)が今後、有名な寺院や神社などで起きた場合、どうなるか? 文化財に指定されていれば国費の投入も可能だろうが、そうでない多数の施設はどうなるのか?

日本は、災害が多い国である。東日本大震災の被災地では、政教分離の原則によって地域の寺社が再建できず、宗教空白地帯が生まれている現状がある。結果、信教の自由が毀損されている。

ノートルダム大聖堂の焼失は悲しい出来事であるが、これをきっかけにして、政教分離の議論を広げていく必要があるように思う。

(写真=ullstein bild/時事通信フォト 写真=iStock.com)
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