TOPIC 4【米中摩擦】
摩擦が続けば夏のボーナスに影響か。日本が担うべき役目とは

対立は、技術覇権をめぐる戦いに発展

18年は米中貿易摩擦が予想以上に激化しましたが、19年は対立に新たな要素が加わり、一層深刻化しそうです。19年の世界経済にとって最大のリスク要因となるでしょう。

米中の対立には2つの要因があります。1つにはトランプという人が大統領になったことです。その背景には所得格差がいきすぎて、米国社会が分断されてしまったことがあります。低所得層で不満を持つ人たちが、自分たちに不幸をもたらしたのはメキシコ移民だとか、中国製品だと言って、それらを悪者にしてしまう。その不満がポピュリズムを表舞台に押し上げトランプ大統領を生みました。大統領は今、彼らの代弁者として諸外国と代理戦争を行っているという構図です。

もう1つ重要なことは米中貿易戦争の中身がここへ来て大きく変わってきたこと。当初は製品やサービスという貿易そのものを問題にしていたのが、技術覇権をめぐる新たな争いになってきています。

中国は国家資本主義の名のもと個人情報保護など気にせずに、ビッグデータを集め、それを活用して技術力を高めてきている。例えばネット通販のアリババグループで決済業務を担うアリペイの会員は実に6億人もいます。今こうした中国のシステムが、アジアにも広がろうとしている。つまり今までの資本主義と国家資本主義の対立が第4次産業革命をめぐる主導権争い、ビッグデータとAIの存在によって、一気にクローズアップされたということです。

世界経済の成長率は、一気に約1%下がる

米中貿易戦争に代表されるようないわゆる保護貿易がさらに広がると、これは世界の経済成長率にとって非常に大きなマイナスになります。つまり、現在、世界経済の成長率が3%台の後半ですけれども、一気に1%くらい下がる、とIMF(国際通貨基金)のエコノミストが予測しています。

GDPが、約19.4兆ドルの米国と12兆ドルの中国の成長率が1%下がっただけで、約3140億ドル(約35兆円)の需要が失われるので、日本や韓国、アジア諸国の景気にも大変な悪影響が出ます。不況に陥り、我々のボーナスだって減るかもしれません。

それから日本の場合は、トランプ大統領の保護主義が飛び火して、自動車がやり玉にあがると大変です。アメリカの貿易赤字のうち、約半分を中国が占め、日本のウエートはわずか1割弱。ただし、そのうち8割を自動車が占めており、すごく目立つからです。

時事通信フォト=写真

米中という世界の2大国が対立して身動きが取れなくなった今、日本はどうすればいいのでしょうか。これまでルール作りを先導していた米国が自国第一主義を掲げていなくなってしまいました。中国自身もルールメーカーにはなれません。

こういうときこそ逆に日本の役割は重要です。今日本は「ルールシェイパー(ルールを形作る人)」の役割を果たしつつあります。米国が抜けた後のTPPもまとめたし、EUと経済連携協定も結びました。こう考えると日本は重要な役割を果たしていると思います。