日本政府は「原発輸出」を重視してきたが……
もう一つの要因が、わが国の政策との関係性だ。リーマンショック後、政府は経済成長率を引き上げるためにインフラ技術の輸出を重視した。中でも、原子力発電に関する技術は新興国からの需要を取り込むために重要な要素であるとされてきたのである。
しかし、東日本大震災による原子力発電所事故に加え再生可能エネルギーの活用が増えた結果、世界的に原子力離れが進んだ。これは日立にとって逆風が強まってきたことを意味する。
その中でアングルシー島における原子力発電所の建設プロジェクトを日立が重視してきた背景には、それなりの理由がある。
まず、英国は先進国であり、政治・経済の基盤が相対的に安定してきた。2012年11月に日立が英国での原子力事業に着手した時点で、今後も安定した政治・経済の環境が続くとの見方に疑いの余地はなかっただろう。
プロジェクトの継続を正当化することは難しくなった
新興国では政権交代によって経済運営の方針が大きく変わることも頻繁にある。それに比べると、英国で原子力発電所の建設に取り組む意義は大きかったのだ。これは、事業環境の先行きを見通し、リスク(不確実性、予想と異なる結果)を管理するために欠かせない条件である。
加えて、事業規模も大きかった。英国での原発建設事業の総額は3兆円に達する。うち2兆円を英国政府が融資する計画だった。日立にとって、他の企業の参画を取り付けつつ、建設プロジェクトを進めることは、インフラ企業としての経営基盤を強化するために重要だったのである。最後まで日立は国内企業に出資を呼びかけつつ、英国に支援強化を求めた背景には相応の根拠があった。
問題は、当初の前提条件が大きく変化したことだ。特に、2016年の国民投票によって英国のEU離脱(ブレグジット)が選択されたことは決定的だった。英国内、および英・EU間におけるブレグジット交渉がどう進むかは、きわめて見通しづらい。そのため、日立のプロジェクト・パートナーにも、手を引くものが出始めた。
目先、英国政府がさらなる支援強化に動くことは想定しづらい。世界的な原子力発電離れの影響などもあり日立の出資呼びかけに応じる国内企業が増えるとも考えづらい。これは、英国の原子力発電所建設のリスクが上昇していることと言い換えられる。
プロジェクトを継続し続けると、想定外の建設の遅延、為替リスクなど、日立が負担するリスクは高まる可能性がある。その中で日立がプロジェクトの継続を正当化し、ステークホルダー(株主、従業員、社会)の納得を得ることは難しい。