弁護士から見た、トラブルを呼び込むタイプとは
労働事件は、どこの企業でも起こりうる。だが、労働事件が繰り返し起きるとなると、話は別だ。こうした場合、やはり社長の姿勢に問題があることを疑う。私のこれまでの経験からすれば、危険な社長には5つほどの共通点がある。自分にそういった兆候がないか、確認してみていただきたい。
トラブる社長の共通点(1)自分の価値観に囚われた人
訴えらえても「法律はそうかもしれないが、当社の慣習は違う。これまでみんな賛同していた。法律はそんなに偉いのか」と立腹する社長がいた。私としては「法律は法律ですから」としか回答のしようがない。
そもそも日本の中小企業は、家族経営から発展したものが大半だろう。どうしても法律よりも、経験からできた慣習に依存しがちだ。慣習と法律の相違が労働トラブルの要因になっていることも否めない。いくら法廷で自社の歴史を熱く語られても、法律に反していれば違法である。法律がおかしいと考えるのであれば、それを変えていくほかない。
人は、とかく「信頼」という言葉を「法律」よりも重視する。「業界では、信頼がすべてですから契約書なんてありません」と平然に口にする人もいる。ハッキリ言えば、あなたの信頼は証拠にはならない。これは労働事件でも同じである。いくら慣習や信頼を述べたところで、意味はない。自分の価値観が法律に合っているのかを見直すべきだ。
トラブる社長の共通点(2)自己啓発に恋をした人
自己啓発本は、経営者にとって心の栄養剤のようなものだ。他人の成功体験を読むことで「自分にもできるはずだ」という強い動機づけにもなる。社長室に、山のように自己啓発本が飾っている人もいる。だが不思議なもので、自己啓発マニアの社長は、トラブルを抱え込むことが多い。抱え込むだけではなく、部下に丸投げして、自分は自己啓発セミナーに通っているケースもめずらしくない。
自己啓発マニアの人は、誰かの成功を目にすることで、自分の将来の成功ばかりに意識がいってしまう。新しい本を読むごとに「これを導入してみよう」と社員に話して取り入れようとする。社員は、「また社長のいつものことか」とあきれつつも付き合う。これに時間を取られてしまい、業務はさらに遅くなる。しかも社長の興味はすぐに冷め、再び新たな一手を求めてしまう。せっかく導入した制度も、あっという間に過去の遺物になる。
こんな興味本位の采配では、社員に徒労感ばかり広がってしまう。まばゆい未来をイメージする社長は、自分は楽しいかもしれないが、現場レベルではいい迷惑だ。理想を語る前に、社長としてやるべきことがある。それは、目の前の課題を解決することだ。それを忘れて、夢想家になってはならない。