セクハラでの懲戒解雇は認められない
問題なのはどういう処分をするかだ。懲罰というのは、行為の悪質性と比例したものでなければならない。ありがちなのはいきなり懲戒解雇してしまうことだ。懲戒解雇は本人の生活の糧をいきなり奪うことになるため、よほどのことでない限り認められない。減給にしても、担当する業務が同じまま減給するなら、法律によって限度が決められている。社長のさじ加減で「明日から給与を2割カット」とかはできないのだ。処分があまりにも重すぎるとして裁判になることもある。現実的な処分としては、降格処分あるいは賞与における評価減であろう。
この事例の結末をお伝えしよう。社長は不安ながらもBを降格処分にした。当然であるが、Bとしては不満であった。しかし、自分の行為の責任もあるので、いたしかたなく従っていた。Bは自分のセクハラが家族にばれるのを恐れていたのかもしれない。それでもBはやはり自分のプライドが許さなかったのだろう。数カ月後に退職していった。退職までの間に取引先の引き継ぎなどをしていたおかげもあり、退職しても特段売り上げに影響することはなかった。
では、セクハラ被害の申し出が女性からなされたとき、社長としてはどのように対応していくべきかについてもう少し検討していこう。
セクハラの実態調査では、女性に最大限の配慮を
大事なことは、女性からの被害の申し出があれば、会社として真摯に受け止めて協力する姿勢を示すことだ。根拠がないとして、調査自体をしないようであれば、会社が女性からの申し出を放置したとして問題となってしまう。慰謝料における増額事由にもなるだろう。なによりも「社長は社員を守ってくれない」という印象を女性社員に与えることになる。
社内で調査するときには、女性のプライバシーに配慮しなければならない。安易に調査をすると、女性のプライバシーを侵害して二重の苦しみを与えることにもなりかねない。セクハラについて聞き取りしていたら「あの人は部長とできていたらしい」といった根拠のない噂が広まることもある。根拠のないものであればあるほど、具体性と迫真性を帯びてさらに広がるものだ。
こういうことが起きないためにも、調査の仕方については留意する必要がある。とくに「セクハラの被害があった」ということを調査のため誰にまで話していいのかについては、事前に女性の同意を得ておくべきだ。いきなり社内全員への聞き取りなどをすれば、女性は会社にいられなくなるかもしれない。