「みな嫌がるけれど、シワやたるみは勲章よね」
【4:「これもまた善し」という思考で生きる】
年齢を重ねると、体の各部位が思うように機能しなくなり、シワやたるみといった“経年劣化”も感じるようになります。
それが、どれほどの“恐怖”なのだろうと思うと、筆者は年を取ることが怖くなっていました。ところが、桂子さんは違いました。ある老人ホームで知り合った桂子さん(当時81歳)は筆者にこう言ったのです。
「こんなところにいつのまにかシワができるなんて、面白いと思わない? 気が付いたら、できているなんて、それまではどこに隠れているのかしらね(笑)。みんなは嫌がるかもしれないけど、これも年を取ったからできたことで、いわば勲章よね……」
そして筆者に続けて、こう教えてくれました。
「この世は修行の場。いろんな嫌なこともあるけれども、それをも含めて『ああ、修行中の身だから、修行させようとしてくださっているのか……。ならばこれもまた、善し!』って、そのことを面白がれるようになるわね」
それから、数年。病が進んでも笑顔が絶えない桂子さんでしたが、ある時、誤嚥性肺炎であっという間に亡くなりました。
老人ホームの介護士さんたちが泣きながら「きっと『これもまた善し!』っておっしゃっていますよね……」とその遺影に語りかけていたシーンを思い返します。
【5:今よりもブラッシュアップするために生きる】
最後に久志さんという男性の話をします。
この方は89歳で、おまけに国指定難病に罹患されていました。徐々に手にしびれを感じるようになり、歩行も困難でしたが、ある日、パソコンの存在に気付きます。
そして、パソコンを使って自分史を作ろうと発奮したのです。お孫さんの協力を得ながら、キーボードでの作業をイチから覚え、一文字ずつ打ち込んでいきました。
約2年の年月をかけ、戦中戦後を生き抜いた「自分史」が完成したそうです。そして、その原稿が本として刷り上がってきた、その日に亡くなってしまいました。看取りをしたドクターによると、久志さんは当初の余命を大幅に超えた頑張りを見せていたそうです。
久志さんの娘さんから聞いた話です。
「父は『人間はいかなる時も目標を失ってはいけない』と言っていました。『常に勉強して、昨日よりも今日、“より良い人間になる”のだという気概が大事だ』ってこともよく口にしていましたね。父のことは本当に尊敬しています」
死に向かって、この身をどう使っていくのか、という“覚悟”
以上、ご紹介した5人は、いずれもご自分なりの人生観を持ち、生き抜いた方々です。希林さん同様に、自律をまっとうされた方々です。共通しているのは、「人は死に向かって生きていく」といった哲学を持っていること。死に向かって、この身をどう使っていくのか、という“覚悟”をもって生きていたと思うのです。簡単にできることではないでしょう。しかし、その姿勢に学ぶことは多いのではないでしょうか。
筆者は、両親の介護を通して「どう死ぬのかは、どう生きるのか」とイコールであるという実感を抱いています。とても難しい課題ですが、樹木希林さんの生き方は改めて、私たちに「あなたはどう生きますか?」と問いかけているように思うのです。