外国での会見で改造人事が発信されるのは珍しい

麻生氏の留任は、問題が大きい。「森友問題」にかかわる文書改ざんや次官のセクハラ問題で説明責任を十分果たさず、管理責任も取っていない麻生氏が改造後も続投することに違和感を持つ国民は少なくないだろう。だが、この原稿では、その点には深入りせず、あくまで「なぜこの日語ったのか」を考えたい。

内外記者会見は本来、首相の外遊を総括して行われるもの。日本メディアだけでなく外国プレスも参加する。当然その外交問題が主議題になる。

国内問題も質問に及ぶこともたまにはあるが、往々にして「帰国後、考えたい」などつれない回答にとどめることが多い。今回のように具体的な人事に言及することは、珍しい。

このことについて安倍氏ともつきあいのある自民党議員の1人は苦笑いしながら明かす。

「日米首脳会談で、貿易問題についてトランプ大統領から相当やり込められたのだろう。それをそらすために、人事の話題を提供したのではないか。安倍氏の常とう手段だ」

マスコミの関心を日米首脳会談からずらすため、閣僚人事でニュースを意図的に発信したというのだ。

安倍首相が国会などで駆使する「ご飯論法」

マスコミはこの会見をどう報じたか。一報を知らせる27日夕刊は、各紙一斉に日米首脳会談で物品貿易協定の交渉入りを1面トップで報じたが、それに続く扱いで「麻生氏の続投明言」(朝日)、「麻生・菅氏ら留任」(毎日)、「首相『2日に内閣改造』」(読売)、「来月2日に内閣改造 首相表明、麻生・菅氏は留任」(日経)と1面で改造情報を報じている。

人事についての発信がなければ、この部分も貿易関係の解説記事が載っていたであろうことは想像に難くない。そういう意味で、安倍氏の発信は効果があったということになる。

翌日朝刊では、政権に批判的な朝日新聞や東京新聞が、一連の不祥事の責任を取らずに麻生氏が留任することの問題点を指摘する記事を載せている。政権にとってありがたい記事ではないが、それでも、貿易問題で米国に押し込まれた記事ばかり並ぶよりは「まし」なのではある。

安倍氏は国会などで「ご飯論法」を駆使すると言われる。「朝ご飯を食べましたか」と聞かれた時、「ご飯は食べてません(パンは食べています)」というような回答で追及をかわす手法だ。人事の情報を出して貿易問題の追及をかわすのは「ご飯論法」の発想と似ているともいえる。