「安倍氏の3選確実」と報じられ、盛り上がりに欠ける自民党総裁選。9月10日に安倍晋三首相、石破茂元幹事長が演説会を開いたが、2人の発言内容は「いつも通り」とされ、ニュースでの扱いは小さかった。だが永田町での受け止めは違う。2人の発言を読み解くと、小泉進次郎筆頭副幹事長への「ラブコール合戦」という側面がみえるからだ。2人の「論争」を再現してみよう――。
2018年9月10日、自民党総裁選挙の所見発表演説会に向かう小泉進次郎筆頭副幹事長(写真=時事通信フォト)

基本的には従来の主張を繰り返しているだけだったが……

総裁選は7日に告示されたが北海道地震の影響で3日間、選挙運動を自粛。10日の立会演説会と記者会見が論戦のスタートとなった。演説会は届け出順に安倍氏、石破氏の順で20分ずつ行った。

安倍氏が5年8カ月の安倍政権の成果を強調し、石破氏は安倍氏の強引な政権運営を暗に批判して「真実を語る」政治への決意を語る、といった内容。アベノミクスの評価、憲法論、防災対策などで2人の違いは見えたが、基本的には従来の主張を繰り返しているだけだった。

しかし、この稿では、あくまで「進次郎氏」に絞って分析していきたい。小泉純一郎元首相を父に持つ進次郎氏は、父親譲りに歯切れのいい語り口と、涼しげなルックスで、人気は政界ナンバーワンだ。総裁選でも進次郎氏の支援を得たほうが有利になるため、両陣営が盛んに秋波を送る。

そんな進次郎氏は態度をはっきりさせていない。その経緯は既報の「安倍側近が"進次郎はこっち"と強がるワケ」でも紹介している。そのラブコール合戦は10日にも随所でみられた。

古典的なエピソードから強引に農政の話に持ち込む

安倍氏は演説の前半、アベノミクスによって経済が成長し、雇用が安定し税収が増えたことを強調した。これは安倍氏の演説では定番なのだが、演説の途中で話の流れを変えた。

「25年前、私は初めて総選挙に挑戦しました。農村地帯を走っておりますと、1人のおじいちゃんが農作業の手を休めて駆け寄ってきました。そして私の手をしっかりと握ってこう言ったんです。『晋三さん、信じちょるけ。この地域を守っておくれよ』。私はこの声に押されて、初当選することができました。農林水産業は厳しい仕事ですが、国の基です。私はこの農林水産業を必ず守ってまいります」と農政の話を始めた。

そして、農林水産物の輸出が過去最高になったこと、生産農業所得が高水準となったことを強調。これからも若者の新規就農者を増やすなど農政改革を進めていく決意を語った。選挙区で老人に語りかけられて奮起する……という演説では古典的なエピソードから強引に農政の話に持ち込んだ印象はいなめない。