アマゾンの場合、このCCCがマイナス28・5日、約30日前後で推移しているのだ。極論すれば、物流倉庫にある商品が販売される30日前にすでに現金になっているということになる。CCCのマイナスが大きいことこそ、アマゾンが巨額の投資や新たな事業を次々と展開できる源泉なのである。大量のキャッシュが動いていれば決算書の赤字など、どうでも良いことだ。
無利子で運用できる「預り金」
しかし、アマゾンは具体的にどうやってCCCをマイナスにしているのだろうか。アップルのように、在庫管理の見直しでは、マイナス30日の実現はさすがに難しいと予想される。
アマゾンのCCCマイナスのからくりは、もちろんこれも公表していないので全貌は定かではないが、その大きなひとつは間違いなく「マーケットプレイス」だろう。第1章で説明したとおり、マーケットプレイスは、アマゾン以外の業者でも出品できる仕組みだ。このマーケットプレイスでは、消費者からの支払いはアマゾンが一括して受けている。その売上から、手数料を数%差し引いて、数週間後に出品者に返しているのだ。
マーケットプレイスの売上の全額が、まずアマゾンに入金され、それが日を置いて返されるのがポイントだ。この一時の入金を「預かり金」という。アマゾンのCCCマイナスは、「預かり金マジック」が大きいだろう。
公表されていないが、手数料は大きな額ではないだろう。たとえば、マーケットプレイスで出品業者が1000円の商品を販売すると、アマゾンが手数料として10%とっていたとする。最終的に手にするのは100円程度だ。だが、一時的に、アマゾンの手元に1000円が入る。つまり、売上からアマゾンの手数料を引いた「預かり金」を出品者に支払うまでの期間はアマゾンにとって無利子で運用可能な資金になるのだ。
2013年時点での試算だが、ある米在住流通コンサルタント(*注1)の仮説では、預かり金でアマゾンが無利子で自由に運用できる額は19億ドルに達すると指摘している。これは、支払いまでの期間を2週間と仮定して計算をした場合の数字だ。マーケットプレイスの流通総額を550億ドルと試算し、総額の約9割を2週間後に業者に支払ったとして計算すると、550億ドル×0.9÷1年(365日)×14日=19億ドル。アマゾンはマーケットプレイスを運営することで、日本円にして、常時2000億円程度の自由に扱えるキャッシュを手にしていることになる。
これはあくまでも2013年時点の推論だ。マーケットプレイスが当時より拡大を続けている現在では、この金額はさらに増えているだろう。