【佐藤】しかも1999年は単なる世紀末ではなく、千年に一度の大世紀末でしたからね。
【佐藤】オイルショックの前年(1972年)には地球上の資源が有限だと指摘する『成長の限界』が発表されました。これも人類の滅亡や文明の破綻の空気を醸成した。
【片山】73年に刊行されてベストセラーになった小松左京の『日本沈没』もそう。『ノストラダムスの大予言』だけでなく『成長の限界』も『日本沈没』も一緒に人類滅亡というリアリティを植え付けた。それと並行して流行したのが、エクソシスト、オーメン、そしてこっくりさんにスプーン曲げ少年。そんなのが束になって襲いかかってきた(笑)。
【佐藤】そうそう。給食のスプーン全部曲がっていたもんね。
【片山】うちの小学校でも昼休みにバケツ一杯分、スプーンを曲げる同級生が出てしまいました。大人なら一過性のブームですんだかもしれないけれど、子どもにはインパクトがありすぎでしたね。オカルト的宗教、超能力、近代文明の破綻、終末論など、のちのオウム真理教の思考パターンを支える価値観が集中的に供給された。世界滅亡にリアリティを持ったまま青年になった人たちがオウム真理教に惹かれていった。
ロシアの闇とシンクロしたオウム真理教
【佐藤】私にはオウム真理教を支えたその価値観がロシアの闇とシンクロしたことがとても興味深かった。
【片山】サリン事件発覚後、ロシアの教徒が麻原彰晃奪還を企てているという報道もありましたね。
【佐藤】奪還計画は確かにありました。ロシアにはいまだに麻原彰晃を信じるカルトのコミューンがある。
【片山】コミューンは複数あるんですか?
【佐藤】いくつかあります。ロシアだけでなく、ウクライナにもある。95年当時、ロシアに2万4000人の信者がいた。今はどれぐらいいるかわかりませんが、数千人いてもおかしくない。
極論かも知れませんが、オウム真理教とイスラム原理主義、あるいはキリスト教の違いは単なる数に過ぎない。終末論的なドクトリンを内包する宗教は、キリスト教でもイスラム教でも暴発すれば、オウム真理教と同様の行動に走る危険性がある。
【片山】地下鉄サリン事件は、いまの国際社会が抱える問題の端緒といえます。イスラム国も使っていない大量破壊兵器を使って首都でテロを起こした。ある意味で世界史の最先端を行ったのが、オウム真理教だった。
事件直後、上祐史浩が毎日のようにメディアに登場して、関与を否定したり、教義について説明したりしていました。國松孝次警察庁長官が狙撃されて、一時は死亡説も流れました。犯人はプロの狙撃手としか思われず、異常な興奮状態で次に何が起きるか予想できなかった。いっときは国家崩壊と完全なアノミー(社会秩序の崩壊)の出現まで心配しました。2・26事件とちょっとダブる感覚もありました。