大人になってゆったりと夏休みを過ごすようになり、クラシックホテルを利用することが多くなった。箱根富士屋ホテル、軽井沢万平ホテル、日光金谷ホテル、伊豆川奈ホテルなどがそれだ。落ち着いた建物や心地よいサービスを楽しみにいくだけではない。過去にここで時間を過ごしたであろう人々と、その時代を想像して楽しむことができるのだ。そのようなクラシックホテルのサンルームやティールームにパソコンを持っていくなどという無粋はしない。もっぱら本書など、ゆっくり楽しめる本を持っていくのだ。

本書はそのクラシックホテルを舞台にした戦争前後のノンフィクションである。

まず第一章で著者は、開戦直前の箱根富士屋ホテルで日米の秘密交渉が行われていたことをつきとめる。当時の富士屋ホテルの経営者は山口正造、日光金谷ホテルの金谷眞一とは実の兄弟だ。その正造の利用客の秘密をまもり、最大の便宜をはかるという、ホテルマンとしての信条をつらぬく姿が眩しい。