人がフロー状態にあるかどうかは、前出のウエアラブルセンサーでも検証できます。フロー状態と相関性の高い身体運動の指標は、無意識の行動の継続性です。やや速めの身体運動を継続する傾向が強い人ほど、フロー状態になりやすいことが確認されています。ただし、これは無意識な特徴なので、それを無理に意識的に作ることはできません。フロー状態になりやすい行動も、人それぞれ千差万別なので、自分なりのフローになりやすいパターンを見出すことが大事です。

外科手術とロッククライミングが集中しやすい理由

ちなみに、フロー状態になりやすい状況として、外科手術とロッククライミングが知られています。いずれも状況に合わせて即興的に行動することが求められますが、即興的な判断と行動により人はその行為に没頭していくのです。即興性の求められることを行うことは幸せのために大変大事です。

フローという状態に気づくようになると、実は従来の幸せに関する考え方が覆ることになります。我々は、仕事で成功することで、幸せになると考えがちです。しかし成功は誰にも保証されませんし、結果が得られるまでに長い時間がかかります。これに対し、フロー状態になることはすぐにでも可能です。成功までの長く、不確実な時間を待つ必要はありません。フローを理解し、フローになる練習をすることによってフローを増やすことも可能です。

ここまで、どうすればよりハッピーになれるかという話をしてきましたが、「午前中のデスクワークでハピネスが高くなる状況」「午後に会話をするとハピネスが高くなる状況」「会議が多い日のほうがハピネスが高くなる状況」というように、幸福感を得るのに有効な行動には個人や状況によって異なります。

そこで我々は、多数の働く人の行動データをAIによって分析し、スマートフォンやタブレットで日々の行動をアドバイスするソフトウエアを開発しました。実証実験などでさまざまな業界の企業で使っていただき、画期的な効果を上げています。

従業員の幸福度をいかにして高めるか。今後はこれが最大の経営課題になると私は思っています。

▼人が成果を上げる本当の仕組み
×やる気がある⇒行動する⇒成果?
行動する⇒没頭する⇒成果!
人はやる気があるから困難に立ち向かうのではなく、まず行動することで「フロー状態」に入る(没頭する)ことができる。その結果、生産性や創造性が向上する。
矢野和男(やの・かずお)
日立製作所 理事・研究開発グループ技師長
1959年、山形県酒田市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。2004年からウエアラブル技術とビッグデータ収集・活用で世界を牽引。博士(工学)。著書に『データの見えざる手』。
 
(構成=山口雅之 撮影=永井 浩 写真=iStock.com)
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