聞けば、誰に命じられたものでもないという。澤田さんの「志」と「夢」を共有し、基本方針の一つ「明るく元気に」を、自分の立場で取り組もうとしたときに、彼は踊り出したのです。

「ダントツのナンバーワン」を一つずつつくる

以上の、差別化、集中、接近戦を三位一体的に取り組むことで、集中した部分で一つひとつ勝っていくことが「ランチェスター 弱者の戦略」の結論です。そして、小さくともダントツのナンバーワンを一つつくる。一つできたら二つつくる。という具合に、各個撃破していくのです。

「ハウステンボスの場合は旬の企画、ここでしかやっていない唯一の企画、日本一・世界一の企画に取り組みました。当時、旬といえばAKB48のコンサートや、人気アニメ『ONE PIECE』に登場する船のクルーズなど。ここにしかない唯一のものは100万本のバラや日本初公開の作品が36品も展示されたゴッホ展、ガーデニング世界大会などです。冬場のイルミネーションは以前から行なっていますが、まずは日本一にしようと2010年に700万球の電飾を使用しました。12年には1000万球と世界最大級の規模となりました。大手検索サイトの夜景ランキングで、3年連続で全国1位に選ばれました」

ハウステンボスは再建初年度から黒字決算します。それ以降、東日本大震災や、熊本地震など観光客が減る要因があっても毎年、黒字決算を続けています。17年には年間来場者が288万人、経常利益が92億円。H.I.S.グループの利益の4割程度をハウステンボスが稼ぎ出すようになりました。

未来を描いて、圧倒的な差別化へ

テーマパークとしての再建を遂げたいま、澤田社長は当初の夢である「東洋一美しい観光ビジネス都市」の実現に向けての動きを加速しています。そのことが、ハウステンボスをいっそう差別化し、独自の存在として輝かせています。

ハウステンボスの面積はモナコ公国と同じくらい。それが“私有地”ですから、経済特区以上の「社会実験の場」として活用できます。そこにさまざまな技術や構想をもつ大学やベンチャー企業を受け入れ、未来ビジネスを生み出すインキュベーションセンターにしているのです。

たとえば、植物工場。将来、世界的な食糧不足が予想されています。その解消に貢献すべく、コンピュータで制御し、ほぼ無人で運営する植物工場づくりを推進しています。世界一生産性の高い植物工場で、農業に革命を起こそうとしているのです。この工場はハウステンボス場内の太陽光発電システムにより稼働しています。世界的な社会問題で、わが国においても切実なテーマである、原子力や化石燃料に頼らないクリーンなエネルギーの普及にも力を注いでいます。

さらにはロボットです。人口減社会のなかでサービス業の生産性を上げていくことも、社会の課題です。15年にはハウステンボス内に、ロボットが運営する「変なホテル」を開業。フロント業務や荷物運びなど、これまで人が担っていた業務の多くをロボットに任せていることで、「世界初のロボットホテル」としてギネス世界記録認定を受けました。

ここでは、女性姿のもの、恐竜型、人形型、ポーターロボット、卓上ロボットなどがホテル業務を担います。ロボットの他にも、顔認証システムでキーレス滞在を実現し、客室内の設備を設置されたタブレットで一括操作ができるなどのハイテク技術が投入され、わずかな数の人間の従業員が管理しています。再生可能エネルギーを自前で活用することも含めてローコストで運営ができます。価格の割にはグレードの高い客室を宿泊客に提供しています。

ハウステンボスでの実験を経た「変なホテル」は、18年現在で首都圏に4軒、愛知県に1軒と数を増やしています。100軒にしていく計画です。また、ロボット事業は「変なカフェ」にも広がっています。人手不足時代のサービス業のあり方を問うています。

これからのハウステンボスで筆者が期待し、注目しているのは、統合型リゾートとしての姿です。ホテル、ショッピング、レストラン、劇場・映画館、アミューズメントパーク、スポーツ施設、温浴施設、国際会議場・展示施設などのMICE施設などと一体になった複合観光集客施設のことですが、目玉はなんといってもカジノです。シンガポールは統合型リゾートで世界中からビジネス客、観光客を集めています。日本でも法整備が進みつつあります。将来の統合型リゾートの最有力地の一つがハウステンボスなのです。

福永雅文(ふくなが・まさふみ)
ランチェスター戦略コンサルタント
東京在住。1963年広島県生まれ。関西大学社会学部卒。広告代理店、コンサルティング会社を経て、99年コンサルタントとして独立。『「営業」で勝つ! ランチェスター戦略』『ビジネス実戦マンガ「ランチェスター戦略」』(以上、PHP研究所)、『ランチェスター戦略「小さなNo.1」企業』(日本実業出版社)など著書多数。
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