ところが、チャーハンを食べてみると、パサつきを感じる。そして香りがない。パラパラ感はこっちのほうが少しあるようだが、保温ご飯をチンしたチャーハンのほうが、ご飯らしい香りもあり、おいしく感じられた。

ご飯は冷める過程で揮発性の香りが飛んでしまう。また、デンプンが老化して飯粒が硬くなる。この老化は60度以下で起こる。炊飯器から出して常温まで冷ませば、当然、老化してしまう。これが味の違いとして出てきたのだろう。

解凍ご飯に立ちはだかる科学的な壁

では、冷凍したご飯をチンするのはどうだろうか?

土屋敦『男のチャーハン道』(日経プレミア新書)

デンプンはマイナス20度以下だと老化しにくくなる。だから、炊きたてのご飯を急速冷凍して、「老化しやすい温度帯(60度とマイナス20度のあいだということだ)」を一気に通過させ、マイナス20度以下にもっていけたら、ご飯の質が保持される。

ただし、業務用冷凍庫ならともかく、家庭の冷凍冷蔵庫の性能では急速冷凍は難しい。冷やご飯よりはかなりましだが、やはり炊きたてのおいしさは失われている。老化したデンプンも再加熱すればまた糊化(こか)するが、完全にもとに戻るわけではない。だから、冷やご飯や冷凍ご飯を電子レンジで再加熱したところで、決して炊きたてのご飯ほどおいしくはならないのだ。

70度以上で保温すれば、5時間ぐらいまでは、炊きたてとそれほど変わらないおいしさがたもたれる。炊飯器で保温したご飯がもっともチャーハン向き、ということになる。

結論。チャーハンに最適なご飯とは?

ただし、保温時間が長くなると当然話は違ってくる。前日の夜にご飯を炊き、翌日の昼に、保温したままのご飯でチャーハンをつくるようなことがあるかもしれないが、ここまで長く保温するとご飯の劣化は著しいものとなる。

それだったら、炊きたてをすぐに冷凍したものを電子レンジで再加熱したものを使ったほうが(ご飯らしい香りにはないものの)はるかにましである。このとき、ご飯をステンレスのバットなどになるべく薄く広げて冷ましたあと、ラップをかけて冷凍庫に入れ、温度を下げる(つまみを「強」にする。急速冷凍のボタンのある機種もある)とより劣化しにくい。

チャーハンにおけるご飯の選択肢の第一は保温したご飯(5時間以内)、そして次が炊きたてをできるだけ急速冷凍したもの、ということになるだろう。

土屋敦(つちや・あつし)
料理研究家、ライター。1969年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒後、出版社にて週刊誌の編集等に携わったのち寿退社。京都での主夫を経て中米各国の滞在、ホンジュラスで災害支援NGOを立ち上げる。その後佐渡島で半農生活を送りつつ、生活総合情報サイト「オールアバウト」の「男の料理」ガイドを務め、雑誌等で書評の執筆を開始。現在は山梨県に暮らしながら執筆活動を行うほか、小中高生の教育にも携わっている。著書に『男のパスタ道』『男のハンバーグ道』『家飲みを極める』などがある。
(写真=萬田康文)
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