なぜ海賊版サイトが人気になったのか
それよりも、「なぜ海賊版サイトが人気になったのか」という点を考えるべきでしょう。海賊版サイトでは、新しいまんがやアニメだけでなく、いわゆる「旧作」となったまんがやアニメも取りそろえていました。つまり日本企業がファンのニーズに応えられておらず、その結果、多くのファンが海賊版サイトで無料視聴していたという側面があるのです。
そこには、日本の出版業界が抱える大きな病理があります。すでに旧作になっているまんがを読もうとしても、中古のまんがを買うには時間がかかります。まんが喫茶にも確実にあるかどうかはわかりません。そして出版社による配信は、設定価格が高く、弾力性を欠いています。これは再販制度のため旧作でも販売価格が下がらないことに影響を受けているとみられます。
そうしたハードルの高さが、小中学生の「まんが離れ」を招いています。かつてはコミック誌やまんが本などの「回し読み」がありました。子供の経済力を考えれば当然のことです。しかしデジタル化でそうした手段が失われつつあります。一部の子供たちは、それでもまんがを消費したいので、どうにかしてタダで楽しめる環境を探し求め、「漫画村」などにたどり着いたのでしょう。漫画がタダで読めなくなれば、子供たちは他のコンテンツ、たとえば「基本無料」のソーシャルゲームに流れていきます。それは「まんがを読む」という文化的な暮らしを失うことでもあるでしょう。
安くて読みやすい仕組みがあればそちらを利用する
翻って、海賊版サイトが意外にもうからないのは、利用者が収益性の高い「成果型広告」に反応しづらいからです。当たり前のことですが、海賊版サイトを訪れる人は、タダでまんがを楽しもうと思ってやってくるわけですから、そこに広告が貼られていても踏まないのです。CODAのように、買いたくないから海賊版サイトに来た客の数に、販売単価を掛けて「これが被害額だからまんが業界が死にそうだ」と主張しても筋が通りません。
日本文化の根底を支えるまんがをどうにかしようと考えるのであれば、出版業界が一丸となって子供たちに一定額の「まんがクーポン」をばらまくなどして、新作も旧作も読みやすい仕組みを提供するのが一番です。子供たちはアダルト広告まみれの違法サイトにアクセスしたいわけではなく、安くて読みやすい仕組みがあればそちらを利用するはずです。
思い返せば45歳の私も、子供のころはまんがを回し読みしたり、友達に音楽テープをダビングしてもらったり、レンタルしたゲームを不正ツールでコピーして遊んでいたりしていました。それが、大人になって可処分所得が増えていくと、毎月10万円単位でゲームなどさまざまなコンテンツにお金を投じるようになっています。いまやコンテンツ業界は単年度の売り上げに一喜一憂していますが、子供から大人への大きなライフサイクルとともに投資を回収するという発想をどこかに置き忘れてきてしまったのではないか、と感じます。