上位5車種が台数の6~7割を占めている

多品種少量化を促した要因の中でも、看過してはならない大きな理由がある。それは、原価計算である。多品種少量化が進むと必然的に製造間接費が製造原価に占める割合は増大する。生産計画立案のための計算コスト、FMSの減価償却費やプログラミングコストなどはいずれも製造間接費に区分され、その金額は予想以上に多額である。

自動車メーカーでは、製造間接費が製造原価に占める割合は実に40%を超えている。製造間接費は、製品に直接結びつけられないコストであるから、配賦(割り振り)計算によって、各製品に帰属させるという計算を行う。配賦を行う基準として採用されるのは、機械運転時間、生産量、販売量等の企業の操業度に関連するものである。ここで、再度確認しておこう。製造間接費は、操業度との関連性はない。配賦とは、わかりやすく言えば「もっともらしい、しかし合理性のない基準に基づいて、製造間接費を製品に適当に割り振る」計算である。

例えば、生産量が配賦基準として採用されている状況で説明しよう。多品種のうち、少数の特定製品の生産量が多く、大多数の他の製品は少量生産であることは決して珍しいことではない。自動車メーカー3社(トヨタ、日産、ホンダ)では、次のようになる。

売り上げ上位5車種の全車種に占める販売台数の割合(2015年国内販売台数ベース)

・トヨタ 39.4%(全車種約50車種)
・日産 66.9%(同約30車種)
・ホンダ 72.3%(同約20車種)

このような状況で、製造間接費を販売台数という操業度基準で製品別に配賦すれば、一部の生産量の多い製品に多額の製造間接費が配賦される一方で、多数存在する少量生産品の製造間接費負担額は極めて少額となる。

多品種少量生産が国際競争力の強化を阻害している

期待がかかる新製品であっても、発売当初は少量しか売れないこともある。製品に利益貢献がない状態は望ましくないという経営判断から、製造間接費の製品負担を一定期間免除するという特例が設けられることも少なくない。当然ながら新製品からの免除総額は、他の製品が負担することになる。考えてみよう。つまるところ製造間接費のうちのかなりの部分は、実は、多品種少量生産体制を維持するためのコストだということである。それにも関わらず、伝統的原価計算に基づく製造間接費配賦を行うと、少量生産品への製造間接費負担は少額となってしまうからである。

その結果、製造間接費の操業度基準による製品別配賦は、実際以上に多品種少量生産品の収益性を良好なものとなる方向に原価をゆがませるのである。

日本企業が実現した多品種少量生産は、世界市場における強力な武器であった。だが、行き過ぎた多品種少量生産によって、コストダウンの効果もなくなり、製品づくりは内向きで細かいセグメントを増やしているだけとなり、むしろ国際競争力の強化を阻害しているのである。

加登 豊(かと・ゆたか)
同志社大学大学院ビジネス研究科教授
神戸大学名誉教授、博士(経営学)。1953年8月兵庫県生まれ、78年神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了(経営学修士)、99年神戸大学大学院経営学研究科教授、2008年同大学院経営学研究科研究科長(経営学部長)を経て12年から現職。専門は管理会計、コストマネジメント、管理システム。ノースカロライナ大学、コロラド大学、オックスフォード大学など海外の多くの大学にて客員研究員として研究に従事。
(写真=iStock.com)
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