異次元緩和の出口に向けて地ならしを開始

2018年は、米欧の中央銀行はどう動くのか。米は17年に9年目の景気拡大となり、大型減税の効果が企業の設備投資の拡大、賃上げに結びつく期待が出ている。

米の景気が順調に拡大すれば、パウエル新議長率いる米連邦準備制度理事会(FED)は、年3回と想定されている利上げのピッチを速める可能性も出てくるだろう。一方の欧州中央銀行(ECB)も年明けから金融緩和の縮小にかじを切る。

そのため米欧の金融引き締めが一段と本格化する2018年秋ごろから、世界経済の成長が鈍化するリスクも出てくる。世界経済の循環的な側面を考慮に入れても、減速の可能性に警戒しておく必要がありそうだ。

「米欧が引き締め局面に入っていることを考えると異次元緩和の出口に道筋を付けておきたいのが本音。景気後退に備えて、早めに緩和カードを確保しておきたい」(日銀幹部)という。少しでも正常な金融政策に近づけ、景気が悪化すれば金融を緩和できるよう状態にしておきたいということだ。

そんな中、注目を集めたのは2017年11月13日、スイス・チューリヒ大学での黒田の発言だ。黒田は、低金利が金融機関の経営を圧迫して、逆に引き締め効果をもたらす「リバーサル・レート」に言及した。

異次元緩和やマイナス金利の導入は長短金利、中でも長期金利を押し下げ、イールドカーブ(利回り曲線)を極端に平たん化させた。これは利ザヤの縮小を通じて、金融機関の収益を圧迫し続けている。一般に金融機関は期間の短い預金などで資金を調達し、より期間の長い貸し出しや国債などで運用しているため、イールドカーブが平坦化し長期・短期の金利差がなくなると、利ザヤ縮小してしまう。

黒田は2017年12月21日の記者会見で、「現時点で金融仲介機能に問題は生じていない」とした上で「(リバーサル・レートへの言及は)今の政策に見直しが必要だということは意味していない」と火消しに走った。ただ多くの金融関係者は、黒田が異次元緩和の出口に向けて地ならしを始めたと受け取っている。

年間80兆円の国債購入等の大胆な金融緩和やマイナス金利の導入で、黒田は筋金入りのリフレ派というレッテルがついている。

しかし2016年9月の「総括的検証」以降は、その色合いは大幅に変わった。長期金利をゼロ近辺に誘導する新たな政策を導入したことで、事実上の緩和の鈍化が進んでいる。国債の購入ペースは、80兆円から大幅に減少しており、日銀の現場のオペレーションを通じて、異次元緩和はすでに出口に向けてかじを切りつつあるのだ。

黒田もこれを容認しており、黒田は、すでに金融緩和の大胆な推進者とは呼べなくなっている。

黒田は、かつてマイナス金利の導入に強く反発したメガバンクに対して「金融機関のために金融政策をやっているわけではない」と豪語した。しかし、黒田の姿勢も大きく変化している。リバーサル・レートへの言及は、黒田の姿勢転換を踏まえた文脈でとらえるべきだろう。