これに合わせてフランス・パリに本社を構えるルノーは、自社の「Twizy」(トゥイージー)という超小型モビリティに速度を45km以下に抑えた仕様をラインナップし、14歳から自動車を運転できるようにしました。Twizyのデザインは、モーター駆動の車輪がついた土台に、前後にふたり乗れる丸い小さなキャビンを載せたような形状になっています。販売台数そのものはフランス国内で年間3000台程度と普通の自動車に比べればまだまだ少数ですが、小型四輪自動車のカテゴリーでは人気のある車種になっています。

根津孝太『カーデザインは未来を描く』(PLANETS)

こうした法整備を行うことによって、自転車やいわゆる原付などに近い感覚で、より走行安定性のある小さな自動車に乗るという選択肢が取れるようになるわけです。

レーンの分離・新設や免許の扱いと同様に、「駐車場をどう確保するか」も大きな問題です。超小型モビリティは、自動車1台分のスペースに2~4台程度駐車することができるので、駐車場の作りも変わってきます。車に乗る人なら、誰もが駐車場が見つからなくて困った経験があると思いますし、イベントやコンサート等では「駐車場が限られているので公共交通機関を利用してください」とアナウンスされていることも多いですよね。

都市部では自転車ですら迷惑駐車が問題になっているような状況ですので、様々な議論はあると思いますが、既存の駐車場インフラに普通自動車の何倍もの台数を駐車できる、あるいは道端に駐車してあっても邪魔にならないようなサイズの車は、こうした状況を変える力も持っています。

「アスファルト」も必要なくなる

インフラという点で言うと、超小型モビリティの場合、動力は基本的に電気にすることが想定されています。いま過疎地域でのモビリティとして、電動バイクが注目されています。そういった地域では、設備の更新に莫大なお金がかかるため、ガソリンスタンドがどんどん廃業してしまい、遠いガソリンスタンドに給油に行って帰ってくるとガソリンがだいぶなくなっている、という笑えない状況になってしまうことがあるのです。

電気であれば、ほとんどの場合、各家庭にまで来ていますから、コンセントさえあれば充電することができる。電気自動車の導入に関して街中への充電器整備の問題が話題になることが多いのですが、こうして見方を変えると、ガソリン車のほうがインフラ整備を必要としているとも言えます。

さらに言えば、車の速度と重量を抑えるとアスファルトを厚く敷きつめた舗装も必要ではなくなります。たとえば埃が出ないよう工夫した「土」の道路でもいいかもしれません。超小型モビリティの考え方を徹底させていくと、コンクリートに埋め尽くされた「都市の景観」そのものが変わる可能性も生まれるのです。

超小型モビリティに対しては「そんなこと実現できないよ」という声も多いのですが、運用面もセットで変えていくならば、眠らせておくにはもったいないほどの、たくさんの可能性が秘められていると思っています。

根津 孝太(ねづ・こうた)
デザイナー
1969年生まれ。92年千葉大学工学部工業意匠学科卒業、トヨタ自動車入社。愛・地球博『i-unit』コンセプト開発リーダーなどを務める。2005年に独立し、「znug design」を設立。主なプロジェクトに日本初の市販大型電動バイク『zecOO』、サーモス社の水筒、タミヤのミニ四駆、トヨタのコンセプトカー『Camatte』、ダイハツの軽四輪スポーツカー『Copen』、超小型モビリティー『rimOnO』などがある。
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