建て替えともなるともっと大変で、建て替え決議を可決するには区分所有者および議決権の5分の4以上の賛成が必要になる。「今さら大金をかけて建て替えなくても、このまま静かに暮らしたい」と高齢の住民が考えるのも無理ないわけで、住民の高齢化は今後さらに重くのしかかってくる。日本ではマンションの建て替えは遅遅として進まず、大地震で崩れるのを待つしかないような状況なのだ。
外部経済で建て替え費用をまかなえる
これはマンションの管理組合だけの問題ではない。日本には「組合」と名の付く団体は数あるが、ほとんどが組合員の総意に近い「合意」に基づく意思決定の仕組みしか持っていない。それゆえに時代環境に適応する思い切った方策も打てず、自ら組織変革もできずに、古臭い共同事業体として時代に取り残されてしまっている。たとえば駅前商店街の振興組合。今や日本全国、寂れた商店街ばかりになって、どこもシャッター街と化している。有志が商店街の改革に立ち上がっても、「ウチはこのままでいいよ」とか「どうせオレの代で店は終わり。もう店と一緒に死ぬだけだから」という組合員ばかりで何一つ動かないのが現実だ。
組合を意思決定ができる組織に変えるにはどうすればいいか。一番手っ取り早いのは商法上の意思決定の仕組みを取り入れることだ。つまり、株式会社化である。株式会社であれば50%超の議決権で意思決定できるから、物事が前に進む。マンションの管理組合を株式会社化して私が社長になったら、たとえば「建て替えて倍の規模のマンションにしましょう」と提案する。今時、都心部のマンションなら容積率は建てた当時の倍になっている。7階建てのマンションなら14階建てにできるのだ。当然、地下も大きく取って、非常用電源や食料備蓄庫なども完備する。
容積率が倍の近代的なマンションに建て替えれば、新しい住人やテナントが大挙して入ってくる。つまり外部経済を取り込むことで、建て替え費用をまかなうことも可能だ。「建て替え費用を負担する必要はない。建て替え期間中の仮住まいの費用も後で精算する」などと説明できれば株主である住民の賛同も得やすい。それで意思決定できるわけだ。何なら隣近所のマンションと話し合って一緒に建て替えしようということになれば、街のブロック単位の大規模開発にもなりうる。新しい容積率にするとどれくらいユニットが増えて、分譲価格はいくらぐらいになるのか、建設会社にボリュームスタディ(建築規模の検討)をやらせて、綿密な事業計画を策定する。得体の知れない組合では誰も金を貸してくれないが、事業戦略や抵当に取れる会社資産が明確な株式会社であれば金融機関だって融資しやすい。