バランスシート縮小の基本的な仕組みは図表3の通りである。FRBが米国債の償還金について、再投資を行わない場合、FRBの「資産の部」における「財務省証券」の残高はその分減少し、米財務省から償還金を受け取ることになる。
米財務省は、財政収支に変化がない限り、FRBに支払う償還金を賄うために新たな米国債を発行する。新たに発行された米国債を、FRBに代わって米民間銀行が保有する場合、米民間銀行はFRBに預けている準備預金を取り崩し、この米国債を購入する。これによりFRBの「負債の部」における「準備預金」の残高が減少し、FRBのバランスシートは縮小する。この時、米財務省の国債発行残高は変わらないため、バランスシート規模は不変である。また米民間銀行も、「資産の部」の勘定科目が変わるだけで、バランスシート規模は不変である。
ドラギ総裁発言のポイント
なお、米財務省が新たに発行する国債については、その満期も注目しておきたい。例えば満期3カ月のT-Billsは、より満期の長い国債よりも価格変動リスクは小さく、現金同等物とみなされやすい。そのため、米民間銀行による現金(準備預金)からT-Billsへの保有資産変更は、比較的スムーズに行われる可能性がある。この時、新規発行のT-Billsの供給量が増えれば、需給悪化により、短期金利に上昇圧力が生じることになる。
しかしながら、T-Billsについては、米民間銀行による現金(準備預金)からの保有資産シフトで、一定の需要が見込まれるため、短期金利の急騰は抑制されると思われる。満期10年の国債の場合でも、考え方は同じである。10年国債の新規発行による供給増で、長期金利に上昇圧力が生じるが、内外機関投資家の強い需要がある限り、金利の急騰は抑制されよう。
金融緩和の解除を巡る動きは、FRB以外の中央銀行にも広がりつつある。ポルトガルのシントラでは、6月26日から28日まで、欧州中央銀行(ECB)の年次フォーラムが開催された。このフォーラムにおいて、ECBのドラギ総裁、イングランド銀行(BOE)のカーニー総裁、カナダ銀行(BOC)のポロズ総裁から、そろって金融政策の正常化について前向きな発言がみられた。これを受け、ドイツ国債、英国債、カナダ国債の利回りが上昇し、日米の国債利回りも連れて上昇する動きがみられた。
ドラギ総裁発言のポイントは、(1)景気回復につれて政策手段のパラメーターを調整できるようになる、(2)調整は慎重に行うべきだが、それは引き締めではなく、政策スタンスを一定に保つためのもの、(3)緩和的な金融政策は依然必要、この3点と思われる。つまり、資産買い入れを段階的に縮小(テーパリング)しても、金融緩和は続けるというメッセージである。
「適温相場」の終わりの始まり
したがって、少なくともドイツ国債利回りの上昇は、期待先行の動きと思われる。それでも、ドイツをはじめ、主要国の国債利回りが足元で上昇しつつあるのは、FRBによるバランスシート縮小の年内開始が視野に入ったこと、そのタイミングでドラギ総裁が慎重な言い回しながらも緩和解除の方向性を示唆したこと、同時に他の複数の中央銀行総裁からドラギ総裁と足並みをそろえた発言が出たこと、などが主な理由であろう。
つまり市場は、近い将来に複数の中央銀行が金融緩和の解除を進める可能性について、早々に織り込みを始めたということである。実際に、今年後半から来年にかけて、FRBがバランスシートの縮小を開始して追加利上げを進め、他の国や地域の中央銀行にも具体的な緩和解除の動きがみられる可能性は高い。その場合、ここ数年続いた「適温相場」の終わりが始まり、世界の投資マネーへの影響が懸念される。