【中野里】特に板前さんというのは、お店を渡り歩く方も多く、彼らの中でのネットワークがあります。そこで「長く働くなら玉寿司」という評価を頂いているようです。29店舗全員で行う朝礼や私も年に2回全社員と面談を行ったり、「社内すし技術コンクール」を開催したりと、コミュニケーションのあり方には力を入れています。
玉寿司は今年創業94年になるのですが、これからは社員が自発的に問題・課題に向き合って解決していく、いわゆる「自走式」の会社にしたいと考えています。10年前、私が32歳の時に会社を継いだのですが、当時は借り入れも多く、財政面の整理もしながらの経営再建を行ってきました。その間のマネジメントはトップダウン、自分が率先して何でも決め、実行していく、というスタイルだったのです。
【丹羽】再建にあたっては、リーダー主導で物事を進める必要がありますね。
【中野里】その結果、売り上げも伸びて約10年で経営状態も改善されましたが、そのままのスタイルで行くのは限界がある、とも感じたんですね。次の100周年に向けて、より良い会社とはどういうものなのか? と考え、スターバックスさんなど他社の事例を調べたのです。そうすると、社員が主体的に動く、という共通点があるように感じたのです。
【丹羽】その通りですね。非常時にはトップダウンが有効な場面も多いですが、会社が大きくなってくると、トップが現場で起きていることのすべてを的確に把握し指示を出すことが難しくなってきます。また、このようなスタイルだと、社員は「上から言われたことに対応すること」が仕事になるため、本当に必要なことを自分で考えて取り組む人が少なくなってしまいますね。その結果として、次第に「やらされ感」で仕事をする人が多くなり、モチベーションも下がっていく……。これまでのコーチングでも「熱狂する社員」などを例にモチベーションのあり方について考えたりもしました(参照:「褒めてほしい」若手社員をどう育てる? http://president.jp/articles/-/21198?page=5)。
新入社員が学ぶ「玉寿司大学」
【中野里】社員からアイデアを引き出すようなコミュニケーションはどのようにしたら生まれるのか? 実は私も2012年からコーチングを学んだり、アドバイザーを招いたりして、私自身、そして組織の文化や体制を変えようという取り組みを始めたのです。そこから生まれたのが、「玉寿司大学」です。まさに今年から始まったばかりなのですが。
【丹羽】大学、ですか。
【中野里】はい。今年は9人の新入社員が学び始めています。昨年までは新入社員を現場(店舗)にいきなり送り込んでいたのですが、まず育成をしっかりやろう、と考えたのです。
寿司職人の世界は徒弟制なのですが、これを変えたいというのは僕の夢でもありました。包丁の入れ方、熱を加えるタイミングなど、何をどう調理すればおいしい寿司ができるのか? ノウハウも不透明なのを体系化された明確なカリキュラムにしたい。この大学作りから自走式で、人間力・接客・調理技術といった具合に分野ごとに役割分担して構築してきたものなんです。
【丹羽】徒弟制の打破と、自走する組織の両方を形にされたわけですね。