孫正義と幹部たちのやりとりの中には、無意識のうちに、さまざまな心理学のテクニックが盛り込まれている。その「言葉力」の中身を、ひとつずつ紐解いてみよう。
写真=ロイター/アフロ

口に出していると理想は現実化する

孫さんの話し方で特徴的なのは、ソフトバンク執行役員 青野史寛氏や同取締役常務 藤原和彦氏に対して使った「ビジョンコミュニケーション」と呼ばれる手法です。これは最近のビジネスシーンで、特にリーダー論の文脈でよく紹介されます。「ビジョンは抱いているだけでは伝わらない。部下や周囲に、口に出して伝えてはじめて意味を持つ」という考え方です。かつて「豆腐を一丁、二丁と数えるように、1兆、2兆の会社にする」と公言したのは、まさにそれでしょう。

元衆議院議員の嶋 聡氏を登用した理由も、そこにありそうです。政治家は国家の未来というビジョンを語る仕事ですから、「ビジョンコミュニケーション」の能力は長けている。つまり、腹心である嶋氏が孫さんと一緒にビジョンを語れば、孫さん一人よりも伝わりやすい。嶋氏の登用には、人脈を活かした対外的なロビー活動だけでなく、ビジョンコミュニケーションを促進する目的があったのかもしれません。