妻の負担減に「夫の残業減」「上司早期帰宅」必須

僕が言いたいのは、内容の是非はともかく、ドイツの政治家のような先を見越したリーダーシップがなぜ日本で発揮されないのだろうか、ということです。ビジョンを語れる政治家の登場を期待したいと思います。

加えて、心配なのは、男性の旧態依然とした働き方です。現在は専業主婦世帯より共働き世帯が多くなっていますが、男性は、世界的に見ても飛び抜けて長い時間仕事(約2000時間)をしています。高度成長期の「飯、風呂、寝る」と同じような働き方をしている男性が少なくないようです。

一方、女性はどうか。こちらは働くことが当たり前の世の中になりました。自分自身で収入を得ること自体は、私個人の意見としては一種のリスクマネジメントとしてとても大切なことだと思っています。例えばあるとき、夫が豹変してDVをする可能性はゼロではないからです。

ところが、残業ばかりで家事・育児がおろそかになっている夫が多いと、女性に多大なしわ寄せがいってしまう。最近はイクメン夫も増えているようですが、家事も育児も仕事も……と現実的に女性はかなりの負担を強いられているのです。

日本の男性が今、すべきこと。それは、例えばヨーロッパのワークスタイルを見習って、早く帰宅して、共に働いている妻と、家事・育児を分担することだと思います。

現在、EUでは年間平均1500時間ぐらいしか働いていないので、夏休みは平均1カ月取ることができます。それで経済成長率は1.5%をキープしている。日本はどうかと言えば、年間2000時間働き、夏休みはたった1週間。成長率は前述したように0.5%です。

皆さんなら、どちらの働き方を選びますか? 我が国は、かなり効率が悪いと言わざるをえません。現に労働生産性はこの20年間連続してG7中最下位を続けているのです。

そこで、重要になってくるのが企業内のリーダーシップです。バリバリ働けば、売上も給与も上がった「昔のやり方」を早く脱却すべきなのです。管理職やリーダーが率先してそうした行動を取ることで、女性の負担も軽減されることは確かでしょう。加えて、ダラダラした仕事のしかたが変わり、効率がぐんと高まる可能性も高いと思います。

現状を考えると、組織内の賢いリーダーに期待するしかありません。夫がダラダラ残業をやめて早く帰宅し、働く妻をしっかりサポートすることが、子育てと仕事の両立を初めて可能にし、これからの時代を我が国が生き抜くための前提条件となるのです。

ライフネット生命保険 会長兼CEO
出口治明

1948年、三重県生まれ。72年京都大学法学部卒業、日本生命入社。92年ロンドン事務所長、95年国際業務部長、98年公務部長。2006年生命保険準備会社ネットライフ企画株式会社を設立、同社社長に就任。08年生命保険業免許を取得、ライフネット生命保険社長に。2013年6月より現職。最新著に『「全世界史」講義 教養に効く!人類5000年史』 (I古代・中世編、 II近世・近現代編:新潮社)など。
(大塚常好=構成)
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