不動産や車に興味なし

合理的な都市生活が前提ということになると、彼らのお金の使い方も従来の富裕層とは大きく異なってくる。まとまった資金があっても郊外の豪邸を購入することはなく、場合によっては不動産の所有すらあまり興味がないかもしれない。

当然のことながら彼らの自家用車に対する関心は薄い。むしろ、自分で運転する必要がなく、移動中の時間をフル活用できるタクシーに対する要望のほうが大きい。最近、スマホのアプリを使った配車サービスを導入するタクシー会社が増えているが、こうしたニューリッチ層にとって、配車アプリは手放せない存在である。

IT業界の巨人であるグーグルは、自動運転の車開発に巨額の資金を投じているが、ニューリッチ層のタクシーに対する関心の高さと自動運転には密接な関係がある。彼らは移動中もネットに接続し、時間を有効活用したいのだ。もしグーグルが自動運転の車を開発し、日本でもそのサービスが始まったら、彼らはどんなに高価でもこれを購入するはずだ。

コンパクト・ニューリッチは、人間関係の構築方法も従来の富裕層とは異なっている。頻繁に人と会って情報交換はするものの、情報収集が目的である以上、ベタベタとした深い関係はあまり望まない。食事に対するお金のかけ方も、従来の富裕層とは大きく異なるだろう。

ニューリッチのライフスタイルは、富裕層のコミュニティのあり方も大きく変えようとしている。これまで、日本の富裕層は、各地域に根ざしたオーナー企業の経営者や開業医、土地所有者などが大半であった。このため富裕層のコミュニティというものも、基本的に彼らの仕事を軸に形成されてきた。

一方、都市部に集中するニューリッチは、特定の業界に偏っているものではなく、相互の関係も希薄である。だが、SNSなどのコミュニケーション・ツールを媒介にして、緩い状態ながらも確実なコミュニティを形成している。こうした新しいタイプの富裕層の増加は、徐々にではあるが、従来型の日本社会の仕組みを変えていく原動力になっていくだろう。

評論家 加谷珪一(かや・けいいち)
東北大学卒業後、ビジネス誌記者、投資ファンド運用会社を経て独立。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。『お金持ちの教科書』ほか著書多数。
 
(写真=PIXTA)
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