しかし、労災ですべてがカバーできるわけではない。カバーできない給料の2割分を請求する場合、あるいは不幸にして死亡し、遺族が慰謝料などを請求する場合は、民事裁判で争うことになる。


「労働災害」の要件

こちらは、労災とは別の枠組みとなる。過労の原因になるほどの長時間残業を命じた上司や、全体を管理する会社に「過失」があったかどうかが主な争点だ。ただし、病気になった従業員の側にも落ち度があった場合には、損害賠償の額が減らされることも十分に考えられる。これを「過失相殺」という。

そして、会社から命じられた定期健康診断を受けずに働き続けていた場合、あるいは健康診断の問診で受けた医師の指示に従わなかったといった事実がある場合、従業員にも一定の責任があるとみなされ、過失相殺による減額の一要因となると、中町弁護士は指摘する。

もし、仕事が忙しすぎて健康診断を受ける暇もない、というのであれば、上司や会社あてに、受診する時間の確保や、場合によっては仕事量を減らすよう、電子メールなど客観的に残るかたちで「SOS」をしっかり発信しておくのが肝要だという。

ビジネスマンとして多忙な自分を、誇らしく思う気持ちも大切だが、それでも「健康あっての忙しさ」だ。あらためて自己管理に留意したい。また、企業の管理職としても、万一のときに責任を問われないためには、部下に必要以上の残業をさせすぎていないか、健康状態に変化はないか、目を光らせておく必要があるだろう。

(ライヴ・アート= 図版作成)