【ケース2】要介護3で認知症が悪化

介護保険サービスの利用は家族の負担を軽減するだけでなく、被介護者を守る場合もある……。

埼玉県でひとり暮らしをしていた85歳の母親の認知症が悪化したため、都内で暮らしていた60代の長男夫婦が同居をすることになった。最初は懸命に母親の世話を焼いていた長男だったが、度重なる失踪に業を煮やして、同居して3カ月が経過した頃から母親に暴力を振るうようになった。やがて、介護を放棄するようになり、おむつ交換を怠るようになった。ヘルパーが入浴介助のために週1回訪問していたが、1週間に1度もおむつを交換していなかったこともあり、ネグレクト(介護放棄)の状態に陥っていたのである。

そこでケアマネージャーが行政と家族の三者で話し合う場を設け、1日2回の訪問介護と週2回の通所サービス(デイサービス)を利用することを提案した。それまでに利用していた介護保険サービスは週1回の入浴介助だけだったので、月額費用は約2000円だった。そこに1日2回の訪問介護と週2回の通所サービスを上乗せしたので、介護費用は約3万3000円にアップしたが、家族の負担が大幅に減り、長男の精神的な負担も軽減されたため母親に対する暴力はなくなった。

なぜ、実の親に暴力を振るうようになってしまうのか。原因は心身の疲労だけではない。

「老いて介護を必要としている親に暴力を振るうなんて信じられないと思いますが、子供にとって親はいくつになっても親なんです。だから、その親が認知症になったりすると、子供は精神的に強いショックを受けてしまう。そして、何でこんなことができないんだと、憐みよりも苛立ちや怒りを感じてしまうことが多いのです」

実の子供ならではの濃密で複雑な感情が原因で、親に暴力を振るったり、ネグレクトしたりしてしまうわけだ。逆に言えば、赤の他人であるヘルパーならば、そうした感情を抱く可能性は少ないということになる。そういう意味でも、介護に家族以外の第三者を介入させることは、プラスの面が大きいのである。