東京都杉並区が静岡県・南伊豆町に所有している教育施設の跡地約1万6000平方メートルに、定員60~80床の特別養護老人ホーム(特養)を設置する計画を進めている。

しかし、いま住んでいる所から離れた場所で介護を受ける「介護移住」は様々な問題をはらんでいるといわざるをえない。特養や高齢者住宅の課題を、コストの視点から検証してみよう。

要介護高齢者を対象とした住宅・施設の運営に必要なコストを大まかに分類すると「住宅サービス(土地・建物・設備等)」「介護看護・事務管理サービス」「食事サービス」となる。入居者1人当たりの月当たりの運営コストは、おのおの13万円、30万円、7万円程度で合計約50万円。サービス内容が同じであれば、特養も民間の有料老人ホームも当然コストは同じである。

確かに都心部で土地を手当てすると一時的に巨額な費用が必要になる。ただ、施設の運営は30年、40年と長期にわたるため、その期間でならしていけば、土地コストの差はさほど大きくはならない。場所にもよるが、入居者1人当たり月2万円前後のアップで十分収まるのではないだろうか。

心配なのは、不慣れな土地で高齢者が健康を害する「リロケーション・ダメージ」だ。東京から南伊豆まで、電車や車で2、3時間はかかり、家族や友人はおいそれと会いにいけなくなる。体が動かなくなってから住み慣れた地域・生活から遠く離されることで、生きがいを失い、認知症になる高齢者は増えるだろう。今回のような介護移住は、決して得策とは思えない。

そもそも「特養は安い。入るのなら特養のほうが得だ」というイメージから見直すことが大切なのではないか。

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特養の収入の大半は社会保障費で賄われる

図に示したものは、介護付き有料老人ホームと特養のサービス内容別に見た収入の内訳である。特養は高めの介護報酬の設定に加えて、低所得者対策の食費や居住費、様々な加算、建設補助金など、投入される社会保障費の額がいかに手厚いかが一目瞭然であろう。結果、個室の特養の月額費用は約13万円程度だが、全く同じ基準・同じサービス内容の介護付き有料老人ホームでは、毎月の支払額は30万円になる。

入所者や家族の立場から見ると、「入るのなら特養」となるのも無理のない話ではあるが、希望者すべてが入所できるわけではない。翻って負担者の立場で考えた場合、そのコストの差額は保険料や税金、借金に負っていることに気づくはずだ。