石原氏も「財界を背負う人たちは、日本の国をどうしたらいいのかを深く考えた話をするのが特徴」と前置きし、次のように語る。

「歴史に詳しくならないと、上位の経営者の輪に入っていけません。まず、日本の歴史がわからないで、日本をどうしたいと話すこと自体が間違いです。私の知っている財界人は、小学生のときに、職を失って路上生活をする人たちのニュースがテレビで流れた際、一緒に見ていた母親から、『あなたがちゃんとしないと、日本はこうなっちゃうのよ』と言われたそうです。こういう視点で成長すると、自然に自分の会社の企業活動だけではなく、国益に照らし合わせた経営をしようと考えます。国際人というのは自国の歴史を語れなければなりません。国際社会で活躍するには常にアイデンティティーが問われます。愛国心をもって自分の国を語れることが、アイデンティティーにつながるのではないでしょうか」

ところで、代々続く土地を相続した地域の資産家たちはどのような会話をしているのだろうか。自分の努力や才覚でのし上がって財産を築いたわけではないので、どちらかというと保守的な発想の会話になりがちだという。午堂氏が解説する。

「どうやれば上手に子どもへ遺産を残せるのか、財産の守り方が話題になります。最近では相続税の税率引き上げと基礎控除の縮小、所得税の最高税率の引き上げや国外に5000万円以上の資産をもつと申告義務が生じるといった、自分の財産を減らす政策への対策です。そのために腕のいい税理士を紹介してくれないかという相談を受けます。株やFXといった相場がらみの投資は、ものすごく興味がある人とない人の両極端に分かれますが、むしろ代々の富裕層の人は、海外投資の話に敏感に反応します」

会話はテクニックというよりは精神性そのものが出る。地域の名門会社とか、上場会社の社長でも、財界人と接触している人は、会話に奥行きをもつことの大切さを知り、人生のステップを上るプロセスで、様々なことをきちんと身につけようとするもの。会話に入れなければ、ビジネスの仲間にも入れないという世界がある。そこに足を踏み入れるパスポートは、読書はもちろん、いくつも趣味をもつことで人間性に深みを加えることだと、石原氏は次のように語る。

「趣味はインドア、アウトドアを問いませんが、例えばゴルフであれば、人並みに楽しむというレベルではなく、『ゴルフにはこんなに奥行きがあったのか』という感覚に到達する、ある意味“ゴルフ道”を極めるといったものです。クラシック音楽であれば評論家をしのぐくらい詳しく、ウィーンフィルハーモニーの演奏を聴くために、ヨーロッパまで飛んでいくくらいです」