エンブレム撤回を受けて、NHKと朝日新聞はこんな記事を出した。
「エンブレム使用中止 ネットが「大きな役割」」(NHKオンライン)
「エンブレム白紙に「大勝利!」 疑惑追跡したネットわく」(朝日。公開しばらく後タイトルは差し替えられた)[※1]
タイトルが示すとおり、どちらも今回のインターネット上での告発や追及を肯定的に報じたものだ。他方、「正義」の暴走の弊害など、ネットの負の面にはほとんど触れずじまいで、バランスの悪さが目に付く。
朝日の記事も書いているけれど、ネット上で盗作疑惑が次々と指摘されたのは、「Google画像検索」のおかげという面が大きい。急速に性能の上がった画像検索エンジンを駆使した、虱潰しの人海戦術というのが、ネットでなされた捜査の正体といって過言でない。デザインというジャンルが、この進化した技術の応用先として――追及側には幸運なことに、佐野氏には不幸なことに――ジャストだったことが騒ぎを想像をはるかに超える「炎上」に導いたわけだ。
「炎上」を後押しした要因としてもうひとつ見逃せないのは、この1、2年で急激に蔓延った「バイラルメディア」である。アクセスを稼ぐことのみを目的としている、個人のツイートやブログ記事などをそのまま貼り付けただけのようなサイトで、質は極めて低い。だが、企業の運営する「ニュースサイト」という看板を掲げることが多いせいで、「まとめサイト」よりマスメディアに近い錯覚をもたらすヌエのような性質を持つ。このたびの騒動で、バイラルメディアが、ネットの声を集約拡大してマスメディアへと手渡すハブのような役割を果たしていたことは重要である。
手法からも察しが付くように、この手のメディアは著作権法をなかば無視することで成立しており、実際トラブルも生じている。そんなメディアが佐野氏の盗作疑惑糾弾の要になっていたのだから笑えない話だ。
今回の騒動を報じるマスメディアが、ネット糾弾の負の面に対して腰が引けていたのは、取材源をネットに依存していることを自覚するがゆえの羞恥の現れだったのだろう。