中堅社員が取るべき「グッドリスク」

リストラをすれば経費が下がり、その結果収益を確保できることになりますが、新しい価値を生み出すことにはなりません。確かに、効率の悪いものや不必要なものをリストラによって切ることで、社会に富をもたらしていると言えなくもないのですが、経済社会にとって分母も分子も減らしていくという流れは、全体としては縮小に向かうしかないのです。これが果たして、ノーマルな経営と言えるでしょうか。私の知るかぎり、リストラで伸びた会社などありません。

やはり、企業経営者の責務というものは、ゼロから富を創造すること、新しい価値を社会にもたらすことです。そのためには、常に新しいものにチャレンジしていくという姿勢が必要なのです。これこそがイノベーションにほかなりません。イノベーションを巻き起こそうと思えば、何らかのリスクを取っていくことになります。リスクを恐れていては、何の改革もできないからです。

しかし、やみくもにリスクを受け止めて、猪突猛進に突き進んでいけばいいかというと、それは違います。トップおよびトップを補佐する者は専門的な知識を持ったエキスパートであるべきで、そのチャレンジは緻密に計算されたものでなければならないのです。したがって、とるべきリスクは「バッドリスク」ではなく「グッドリスク」ということになります。

とはいえ、リスクはリスクですから、不確定な要素は最後まで残ります。それでも難しい判断を引き受け、チャレンジを決め、実行に移すのがリーダーとしての役割と言えるでしょう。ところが、日本経済の停滞が長期に及んだことで、改革に消極的なスタンスは経営者たちの意識に染みついてしまい、「リストラ型経営」から「イノベーション型経営」へと転換を図るのはとても難しいことに思われてなりません。

であれば、意欲を持った若手、中堅社員たちが、会社の体質を変えていこうというスタンスに立ち、自分たちが関わっている業務の中でイノベーションを実践していくしか、企業の体質を変える道はないのではないでしょうか。内部改革というような流れを作ることができ、それが全体に広がっていけば、トップマネジメントも変わらざるをえなくなると思います。

※本連載は書籍『グッドリスクをとりなさい!』(宮内義彦 著)からの抜粋です。

宮内義彦(みやうち・よしひこ)●オリックス シニア・チェアマン。1935年、兵庫県生まれ。58年関西学院大学商学部卒業。60年ワシントン大学にてMBAを取得後、日綿實業(現双日)入社。64年オリエント・リース(現 オリックス)に転ずる。70年取締役を経て、80年社長兼グループCEOに就任。2000年会長兼グループCEO、14年より現職。ACCESS取締役、ドリームインキュベータ取締役も兼務する。
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