【田原】御手洗さんの思いはわかります。ただ一方で、終身雇用、年功序列が日本をダメにするという声もある。アベノミクスでも雇用の流動化が検討されています。このあたりはどうですか。
【御手洗】アメリカ流の流動性は、この国ではなかなか育たないと思います。終身雇用には終身雇用のいいところがありますから。
【田原】どういうところがいいところ?
【御手洗】多くの社員は終身雇用という前提で入社してくるので、たいていの社員は初めから会社に対する愛情を持っています。つまり愛社精神という文化的なコーポレートガバナンスが醸成されやすい。これが第一。それから教育をしやすいし、それが蓄積します。社員が失敗しても、その失敗が人と同時に残って、二度と繰り返さなくなる。
【田原】アメリカは違う?
【御手洗】私はアメリカに23年いましたけど、せっかく人を育てても、よりよい条件で他社からオファーがあれば、簡単に移動してしまう。心から「コングラチュレーション」と言って送り出せるようになるまで10年くらいかかった気がします。
【田原】ただ、終身雇用で首にできないから正社員を雇えず、非正規が増えているという現実もあります。
【御手洗】それは景気次第でしょう。日本の景気がよくなれば、そういう問題は解決します。
【田原】そこで聞きたい。90年代のはじめまで日本の国際競争力は世界1位だった。これがいま、24位まで落ちちゃった。どうしてですか?
【御手洗】世界中が市場経済をベースとし、競争が激化したことで、相対的に日本のイノベーションを生む力が下がってきたからではないでしょうか。やはり日本は研究開発の源泉として、思い切った大学改革を進めるべきです。アメリカがやっているように、世界に冠たる大学院大学をつくって世界の頭脳を集めるような大改革です。
【田原】大学ですか。どこがいけない?
【御手洗】いまは大学に対し、基本的に平等精神で予算を割り振っているじゃないですか。やはり選択と集中を進め、大学をいくつか選び、多年で大規模な予算を与えて、長期研究が可能となる仕組みをつくるべきです。アメリカでは、大学がパテントを取得し、それをもとに民間とベンチャービジネスをやったり、あるいは大学自身がベンチャーをやり、IPOを行って資金を稼いだりするシステムがあります。日本は、そういうこともやりづらいですから。
【田原】なるほど。キヤノンがそういう大学をつくってはどうですか。
【御手洗】それは国家レベルで推進すべきでしょう。日本はいまGDPの3.3%を研究に投資しています。しかしながら研究開発投資の総額の8割は民間による投資です。アメリカは民間7割、フランスは民間6割です。だから日本も民間だけでなく、国にもっと頑張ってもらわないと。