解雇しにくいのは大企業だけ

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解雇をめぐる紛争の3つの解決法

では、実際の解雇をめぐる紛争では、どのような決着がはかられているでしょうか。

日本の労働紛争解決システムには労働委員会によるあっせんと労働審判制度、訴訟があります。一番手軽に利用できるのがあっせん、いちばん費用がかかるのが訴訟で、どの手段を選ぶかによって結果はまったく異なってきます。

ある調査によると、問題発生から解決までの期間と解決金の中央値は、あっせんで2.4カ月、17.5万円なのに対し、労働審判では6.4カ月、100万円、裁判の和解では15.6カ月、300万円と大きな開きがあります。

これが何を意味しているかというと、大企業の労働者が労働組合のサポートを受けて裁判に訴えると、時間はかかるが大きな金額を取ることができる一方、労働組合のない中小企業で働く労働者が裁判を起こすのは難しく、いちばん手軽なあっせんを利用すると解決までの時間は早いものの金額は非常に少なくなる、ということです。

「日本では解雇するのが大変」という人がよくいます。確かに大企業はそうかもしれませんが、中小企業の労働者は滅茶苦茶な解雇をされても泣き寝入りするか、解決金をもらえてもほんのわずかという状況がこのバラつきに表れています。ここにも解決の仕組みを整える理由があります。

ただ、紛争解決システムづくりで難しいのは、大企業の経営者と労働者、中小企業の経営者と労働者で利害が錯綜することです。

日本の大企業では「解雇はできない」と一種の金縛りのような状態になっているのに対し、中小企業では比較的自由に解雇が行われています。そこに解雇の際に支払う金銭的な目安ができると、大企業の経営者と中小企業の労働者は賛成し、中小企業の経営者と大企業の労働者は反対するという構図が生まれるでしょう。

中小企業経営者にとってはコストアップになるかもしれませんが、労働組合のある大企業の労働者にとってはメリットもあります。現在、裁判で解雇が無効となったときの法律的な枠組みとしては、現状の職場への復帰しかありません。しかし法律に基づいた制度として紛争解決システムができれば、「金銭による解決も選べる」と選択肢が増えることになるからです。

予測可能性が高くスピーディーな紛争解決システムが導入された後、解雇が増えるかどうかはわかりません。ただ、泣き寝入りする人やごね得する人が減り、納得性の高い解決の仕方は明らかに増えると思われます。少なくとも、アメリカのように比較的容易に正社員が解雇されてしまうような社会になることはないでしょう。

(構成=宮内 健 写真=Getty Images)
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