日本より規制が強いEU
日本よりも解雇への規制が強いのがEUです。多くのEU諸国では、日本と同様に客観的な合理性や社会的な相当性が必要とされ、トラブルで裁判になるケースは日本より多くあります。
そうした場合、国によって何が不当解雇になるかの違いはありますが、ほとんどのEU諸国で用意されているのが金銭解決の仕組みです。解雇が不当だとしても従業員が元の職場に戻るのは嫌でしょうから、会社がお金を払って紛争を解決するのです。不当解雇で会社が支払う金額は通常、勤続年数によってどのくらいになるかが法律で決められています。
こうした仕組みがあるため、企業側から「このくらいの金額でどうか」と話が持ちかけられ、労働者はお金を受け取れるケースが多いようです。
日本では解雇が無効となったときに、企業が労働者へ補償金を支払う仕組みはありません。ただし労使間で解雇をめぐって紛争が起こったとき、金銭的な解決が行われている実態はあります。つまり裁判で和解をして、あるいはあっせんや労働審判によって金銭的解決を行っているケースがかなりあるのです。
「実態として行われているのなら、わざわざ紛争解決の仕組みを導入する必要はないのではないか」という人もいます。それでも仕組みの構築が必要な理由は、一つの「目安」ができるからです。
労働者が裁判を起こし不当解雇の判決が出た事例が蓄積、整理され、たとえば勤続年数20年の従業員が裁判で解雇無効になったら、給与15カ月分の解雇補償金を企業が支払って決着するという法的な仕組みができたとしましょう。そうすると、労働者は「このケースではこれだけの金額がもらえてしかるべき」とある程度、予測がつくようになります。予測ができれば、裁判に訴えるべきか、それとも他の手段で紛争を解決するかという判断を適切に行えるようになるでしょう。
企業も「裁判で負けると最大でこれだけの金額を支払わなければいけない」とわかれば、「何年も裁判で時間を取られるより、このくらいの金額で解決しよう」と判断できるようになり、紛争の解決がスピーディーになります。