原宿も渋谷も新宿も、アキバっぽくなってきた

【桃井】最近、私が住む近所の寂れた商店街に、早朝から野菜を売るお店が現れたんですよ。試食用の野菜を配ったり、惣菜をお年寄り用に小さな容器に入れて販売したりして、お客のニーズの取り入れ方もとってもうまい。早朝から近所の人たちが集まって、サロンのようになって盛り上がっています(笑)。秋葉原のメイドカフェも、ネットでは買えない、そんな触れ合いのサービスを提供する先駆けだと思います。秋葉原のアイドルたちも、秋葉原へ出かけるきっかけを作っています。ネットで見るのと現場に行くのでは、感動が違いますから。今はネジ1本でもネットショップで即日配達してくれるようになりましたが、人の触れ合いも求められているんです。

【梅本】そういう「人と触れあえる秋葉原らしさ」は、今も残っていると思いますか?

【桃井】うーん、昔の秋葉原は、誰かに捨てられた物を買いにくる「拾う神」が集まったものですが、今はそういう物を置いている個性的な専門店や謎のお店はネットに移行したので、減ってきたように感じます。見た目にも整然としたお店が代わりに増えて、他の駅周辺の街と似てきてしまっていることに私は危機感を持っています。

【梅本】秋葉原らしさは失われつつあるのでしょうか。

【桃井】興味深く思っていることは、ここ2年で、山手線の駅でとくに若者が集まる原宿、新宿、渋谷などの中心地に、アキバ的なアニメのグッズを扱うお店が本当に増えたということです。新宿だけでも、アルタの中やマルイワンにアニメのショップやタイアップのコーナーがありますし、渋谷のファッションブランドのショップでもしょっちゅうアニメのタイアップのディスプレイをしています。だから前は秋葉原だけにあったような面白いものがアキバだけに留まらず、分散して拡散して広がったんだという感じがします。秋葉原が変わったというよりは、周りがアキバっぽくなってきた。

でも、秋葉原の端にある旧万世橋駅跡に最近できた商業施設のオープンカフェで、お茶を飲みながら秋葉原を眺めたときに感じたんです。大きな看板にはアニメのイラストがドーンと描いてあり、蛍光色の看板を掲げたDVDショップやゲームセンターが立ち並ぶ。自分を飾るのではなく、作品や娯楽の奥にあるストーリーを買いに来る。この内向きな騒々しさはやっぱり世界中のどの街並みにも似ていない独特なものです。「秋葉原が変わった」と言うよりは、東京の周辺都市がアキバに近づいていっている。だから、「元祖」というか「その文化の始祖の地だ!」というふうな重みさえ感じます。それが、外国からいらっしゃった観光客の心をもつかむのではないでしょうか。秋葉原はやはりどの都市よりも個性的で面白いのは間違いないと、私は思いますよ。

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