年収だけで職を選ぶリスク
「職業は『有利』で選んではいけません。『好き』で選ぶべきです」
作家の堺屋太一氏から、こんな話を聞いたことがある。山一や拓銀の倒産から丸2年。堺屋氏は小渕恵三内閣の経済企画庁長官として、日本経済の再浮上のため知恵を絞っていた。
それにしても、なぜ「好き」で選ぶべきなのか?
「ある業種が20年以上も『いい時代』を保てたためしはありません。ですから(就職先を)『好き』ではなく『有利』で選べば、あとになって『不利』なうえ、『嫌い』なところにいる自分を発見するはずです」
この話は長く筆者の胸に残った。有利か不利か、つまり平均年収のようなデータだけで就職先を選ぶことの怖さを、的確な言葉で表していたからだ。
ソニー会長兼CEOのハワード・ストリンガー氏は米CBS放送の敏腕プロデューサーとして鳴らしたあと、前会長の出井伸之氏にスカウトされソニー入りした。そのストリンガー氏が、出井氏のあとを受けて超多忙のCEO職を引き受ける際、まだ小さかった英国在住のお嬢さんに「(CEOになると)いまより忙しくなってあまり会えなくなるけど、それでもいいかい?」とたずねたところ、彼女はこう答えたという。
「もっとパパとたくさんいたいけど、私はソニーも大好き。だからソニーを辞めないで」
ストリンガー氏本人はもちろん、娘さんまでソニーという会社のファンなのだ。たまたまソニーは年収ランキングでも上位に位置しているが、大事なのはむしろ「ソニーが好き」ということのほうではないだろうか。