個人の主義主張とは別に、反対であれ、賛成であれ公正な議論こそが重要であると考えているが、今回の消費税の集中点検会合の人選はあまりにも偏向しすぎではないか。特に最終日の8月31日の第2回目の経済・金融の有識者の会合のメンバーに、増税そのものへの反対を明確に唱える人は1人もいなかった。
参加した有識者と消費税に対する主な見解を紹介すると、植田和男氏(東京大学教授)「消費税25%でも不十分」、菅野雅明氏(JPモルガン証券)「消費税20%への段階的引き上げをコミットすべき」、國部毅氏(全国銀行協会)「消費税率は計画通り引き上げることが大事」、高田創氏(みずほ総合研究所)「消費税引き上げ見送りで財政規律への不安」、土居丈朗氏(慶応大学教授)「10%は当たり前。15%ぐらいの数字まで段階を踏んで上げていく」、西岡純子氏(RBS証券)「増税自体は個人消費を抑圧する要因にはならない」、本田悦朗氏(静岡県立大学)「毎年1%増加」。永濱利廣氏(第一生命経済研究所)は、景気への影響を考えるも渋々容認といったスタンスだ。
これでは増税を実施するか否かの判断ではなく、増税を前提にその方法論が話し合われているだけであり、別の日程の会合では単なる陳情に終始していたと言われても仕方ないような内容だった。
浜田宏一イェール大学名誉教授の名前も挙がっていたが、氏はあくまでも引き上げに「慎重」の立場である。是非や課題を聞くための点検と銘打っているにもかかわらず、明白な増税反対を訴える有識者が皆無に等しいのでは公正を欠く議論にしかなりえない。
「最初から意図的に方向を決めるのではなく、議論を集約してそのまま総理に報告したい」とした甘利明経済再生担当相の意向にも反しているし、増税賛成者のみで語られた会合結果を伝えられても安倍晋三首相とて困るだろう。
財政難の米国がいまだに消費税(付加価値税)を採用していないことは、意外と知られていない。米国が採用しているのは通称州税といわれる小売売上税で、消費税とはまったく違うタイプの税制だ。
実は、米国議会では過去何十年にもわたって、付加価値税の導入について議論が持たれてきた。法人税や所得税に代表される直接税に比べて、消費税・付加価値税など間接税が優れているとは見なせないという理由で採用は見送りとなっている。ちなみに、米国の国税における直間比率は9対1だ。付加価値税の場合は特に、輸出に還付金が渡され、輸入には課税される点、法人税引き下げとセットにされやすい点などが議論の焦点となってきたことが米公文書に多く残る。