次の進化は、この街の仲間たちから生まれる

その2足歩行ロボットの急速な進化が求められるようになったのは、東日本大震災の時からでした。2011年の東日本大震災時に起きた福島原発事故の際、米国の軍事用ロボットを始め多くのロボットが活躍したのですが、今回のように人間が立ち入られない危険な環境で、あらゆる場所を移動し、人間のように道具を使った複雑な作業をこなすには、人型2足歩行ロボットが求められたのです。日本では1995年の阪神・淡路大震災の後から、災害時用レスキューロボットの開発と実用化が進められ、瓦礫(がれき)除去のための建設機械のような大型レスキューロボットや、災害現場の情報収集ロボットが、これまで活躍してきました。しかし、原発事故の現場で求められている技術を持つ人型2足歩行ロボットは、残念ながらまだ存在していません。

これからもさらなる進化を求められる人型2足歩行ロボットですが、その進化の可能性を秋葉原で見つけることができました。

秋葉原の中央通りから外れたひっそりとした路地の奥に、2足歩行ロボットユーザーのための交流スペースがあります。近藤科学が運営する「KONDO ROBOSPOT(ロボスポット)」です。ここでは、1時間500円で作業スペースや工具を自由に使うことができます。2足歩行ロボットによる格闘大会「ROBO-ONE」の公式バトルリングも設置されていて、仲間と模擬試合を楽しむこともできます。

もともとラジコン部品メーカーの近藤科学は、自社のラジコン用サーボモーターが2足歩行ロボットを組み立てるマニアの間で人気があることを知り、2004年に二足歩行ロボット組み立てキット「KHR-1」を発表して「ホビーロボット」市場に参入します。サーボモーターとは、軸が回転し続ける普通のモーターと違い、回転軸の停止位置を制御できる特別なモーターです。2足歩行ロボットの関節部分にそれを使うと、自由な動きが実現できるのです。2006年には後継機の「KHR-2」を発売。同年、秋葉原にオープンしたのが、「ロボスポット」でした。

「KHRシリーズ」は、10万円ほどの値段でありながら、本格的な2足歩行ロボットで「ホビーロボット」の普及に貢献しました。初心者でも楽しめるように、組み立てにははんだ付けもナットも必要なく、プログラムができなくても、ロボットを実際に動かして動作を覚えさせる「ティーチング・プレイバック」と呼ばれる制御技術で、簡単に思い通りに動かせるように工夫されています。さらに、この動作データをユーザー間で交換できるので、仲間づくりのきっかけにもなります。この2足歩行ロボットを通して「ロボスポット」で楽しみ、交流することは、新しいロボット技術の発展につながる可能性を感じています。

経済産業省が今年7月に公表した「ロボット産業の市場動向」では、「ホビーロボット」の市場自体はまだ大きくありません。2015年の予想市場規模は223億円で、サービス分野のロボット市場の約6%を占めています。ただし今後、サービス分野のロボット市場の割合は増し、20年後にはロボット市場全体の50%を超え、それに合わせて「ホビーロボット」の市場規模も増加すると予想されています。

秋葉原はこれまでも電子機器の部品を買い求める人たちが集まる交流の場であり、単なる消費の街ではなく、ものづくりの技術と精神が宿る街だったのです。これからは「ホビーロボット」としての人型2足歩行ロボットを組み立て、動かし、仲間と交流することで、ロボット技術への関心を持ってほしい。それが次世代のものづくりにつながる技術と精神の種となると思うからです。

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