締め付けを緩めたほうが繁栄する
アメリカやイギリス、スペイン、ポルトガルなど、世界の超大国と呼ばれた国は共通して、「版図を拡大する時期」がある。アメリカに並ぶ超大国となった中国も版図を拡大してきた。大陸にあってはチベットや新疆ウィグル、内モンゴルなどに意図的に漢人を移住させる膨張政策で“領土”の既成事実化を進め、東シナ海や南シナ海では領土と海洋権益の拡大を狙って周辺国と衝突を繰り返している。
私が思うに、そもそも毛沢東時代に蒋介石の国民党を追い出して出来上がった中国の版図そのものが大きすぎるのだ。宋の時代や明の時代には、版図の大きさが力の源泉になった時代もあったが、今の中国には、持て余すほどの大きさで、チベット自治区や新疆ウィグル自治区の分離独立運動に手を焼いている。
中国には150の少数民族(中国政府が指定する少数民族は55種)がいるといわれる。中国政府は少数民族との“融和”を強調するが、現実には“抑圧”の側面が強い。言ってみれば西欧列強が聖書と剣を両手にキリスト教の布教と植民地化を進めたのと同じやり方。共産主義を教条として漢族による支配を認めるなら、民族や宗教活動などもある程度目こぼししてやろう、というものだ。そういう意味では共産主義はイデオロギーというよりも宗教に近い。
今や中国共産党政府は共産主義の教義と毛沢東時代の版図を守ること自体が目的化して、何のためにそれをやるのか、本当の目的がわからなくなっている状態だと思う。たとえば「繁栄と発展」を目的とするなら、漢民族が楽に支配できる版図に絞り込んでも十分にいけるだろう。
大英連邦のような形で、北京を盟主にした中華連邦に移行して、余計な締め付けをやめるほうが統治しやすいはずだ。それぞれ自立してやっていけと、香港と台湾、チベット、ウィグルなどは自由にやらせる。彼らは喜んで発展していくだろうし、19世紀の国民国家的な飾り付けをすれば国連の加盟も可能だ。縛り付けておく負荷が軽減されて北京政府も楽になる。締め付けを緩めたほうが、中華連邦全体としては繁栄するし、国連総会などでも勢力は高まるはずだ。
一方、北京は「連邦」に加わるほうが得だ、と思わせるような対価を提供する必要がある。締め付けるよりも、「帰属したい」と思わせるメリットを前面に出すのだ。「一国二制度」と言いながら、台湾などに対しては「1つの中国」、と縛り付けるのは明らかに毛沢東の版図からくる呪縛で、そろそろ現実的なメリットを見直す時期に来ていると思う(詳しくは拙著『中華連邦』参照)。