※本稿は、長尾彰『宇宙兄弟 「心理的柔軟性」リーダーシップで、チームが変わる!リーダーの話』(Gakken)の一部を再編集したものです。
理想的なリーダーとはどんな人か
リーダーとは常に、メンバーの先を行っていなければならない。
これは、『宇宙兄弟』の第1話に登場した六太の言葉、「兄とは常に、弟の先を行ってなければならない」を、「リーダー」に置き換えたものです。
さて、あなたならこの言葉から、どのようなリーダー像をイメージしますか?
目標に向かって迷うことなく先頭を突き進み、メンバーに「こっちだよ」とルートを明示しながら牽引していく。何かトラブルが起これば、真っ先に駆けつけて的確な指示を出していく――。そんな姿でしょうか。
あくまで僕の想像ではありますが、あの頃の六太なら、リーダーの在り方に対してもこのようなイメージを抱いていたかもしれません。当時の六太は、宇宙飛行士として世界から注目を集める弟・日々人と、宇宙飛行士の夢を諦めてしまった自分とを比較しては悶々としており、「兄は、弟を牽引する存在でなければならない」という固定観念に捉われていました。
「~べきだ」より「~してみませんか?」
でも、現在の六太は違います。
宇宙飛行士として、さまざまな訓練を通じて魅力的なリーダーや先輩、仲間と出会い、六太が本来持っていた強みや特性を発揮できるようになっていきました。
そして、難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う天文学者・金子シャロンから託された月面天文台という壮大な夢を実現させ、さらには、日々人との「月面で会おう」という約束も果たしたのです。
加えて六太は、その過程において、JAXAの同期である真壁ケンジや伊東せりか、月面基地で共にミッションに挑むチーム「ジョーカーズ」のメンバーといった仲間たちにも、影響を与えていきました。
こうしたシーンのほとんどで彼は、相手に対して過度な介入をしていません。「~してみませんか?」という呼びかけは行っても、「~するべきだ」と声高に主張したり、説得して行動を強要したりということがないのです。

