欧米より大きい日本の株主の権利

株式会社はじつに優れた制度であるが、いくつかの弱点を持っている。深刻な弱点の1つは、その責任と比べると過大な権利が株主に与えられていることからくるものである。株主には有限責任という特権が与えられている。会社が債務を持っていても、その債務に対して出資額の限度内でしか支払い義務を持たないという責任の限定である。このような責任限定があるから安心して株を買えるのだ。このような責任限定があるにもかかわらず、株主には、経営者の任免権をも含めた企業支配権が与えられている。それだけではない。日本の場合には、株主に与えられている権利は欧米よりも大きく、利益処分をはじめとした様々な議案の議決権も与えられている。アメリカの場合、株主の議決権が経営者の任免権に限定されているのとは対照的である。

この過大な権利を利用して、他の株主や利害関係者の犠牲のもとに自己の利益を図ろうとする濫用的株主が出てくることがある。株主権の濫用によるモラルハザードである。このような濫用的株主は、多くの経営者にとって頭痛のタネである。日本だけではない。世界中どこの国でも困りものである。困りものであるがゆえに経営者に圧力をかけることができる。余計に厄介なのである。企業の長期的な発展を考えている経営者は、このような濫用的株主から会社を守るための防衛法を考え出さなければならない。かつての日本企業は、株式の持ち合いという方法で企業防衛を行ってきた。実に効果的な方法ではあったが、バブル崩壊後の株価の低迷で崩壊してしまった。持ち合いが崩壊してからの代表的な防衛策は、新株予約権の無償交付を利用する方法である。濫用的株主が企業買収を仕掛けてきたときに、一般株主に新株予約権を無償で与えることによって株式の水増しを行い、濫用的株主の買収コストを高めようとする方法である。

日本ではすでに500社を超える上場企業がこの方式の買収防衛策を導入している。ヨーロッパの場合、敵対的買収を仕掛ける株主は、株式のすべてを買収しなければならないという制約があり、濫用的株主に対する歯止めがあるのに対して、日本にはそれがないのである。個別の企業で買収防衛策を導入するしか方法はないのである。日本の上場企業の多くは、経済産業省の企業価値研究会のガイドラインに従って防衛策を導入してきた。ところが、この企業価値研究会が、防衛策の発動に関して慎重であるべきだという新しいガイドラインを示した。これに戸惑っている経営者が多い。せっかく導入したのに、使えない可能性が出てきたからである。

この新しいガイドラインの深刻な問題は、企業防衛の基本的な考え方にある。企業防衛は、株主共同の利益を基準に考えられるべきで、株主以外の利害関係者(ステークホールダー)の利益に言及することで買収防衛策を発動してはならないという考え方である。この考え方は、日本のビジネスの現実に合わないからである。