原発のすべての神話が崩れ去った
電力会社も国もデータを開示していないため、周辺の数字から算出してみよう。手がかりは「電気事業法」にある。同法29条第1項の省令が、電力会社に対して10年先までの供給計画を経産省に届け出ることを義務づけているからだ。10年度末は今年3月末。“3.11”の福島原発事故が通常の数値を狂わせるため、ここでは前年度の数字で試算する。
まずは原子力を見てみよう。発電電力量は2785億kW時、発電設備は4885万kWだ。電力量を電力(発電設備)で割れば年間稼働時間が出るため、それを1時間当たりに直せば大雑把な設備利用率を弾き出すことができる。詳細なデータの不足で多少の誤差は生じるが、09年度の原子力利用率は約65%となる。
ならば、問題の火力はどうか。同年度の発電電力量は5892億kW時、発電設備は1億4572万kW。したがって、被災直前の利用率は46.2%。火力発電所には今も53.8%の余力が潜在しているということになる。
電事連が発行した資料『図表で語るエネルギーの基礎』の最新版によれば、原子力が全電源に占める最大出力は、高稼働で優先されているにもかかわらず22.7%。一方、設備利用率を一律80%として試算した場合の火力と原子力の出力(一基当たり)は、原子力130万kWに対して、石油火力40万kW、LNG火力150kW、石炭火力90万kWという数値が弾き出されている。しかも、高効率のLNG火力は建設単価も格段に安い。火力の余力は、原子力を補って余りあるということだ。被災した火力発電所はまもなく全面復旧する。
「平和利用」という甘言で導入された原発は、平成の世に被曝と惨禍をもたらした。なのに、政府はあろうことか次代の輸出産業として鼓舞振興する。度重なる事故で停止中の高速増殖炉「もんじゅ」が象徴する核燃料サイクルの破綻後も、税金が原子力産業に浪費され続けている。
戦後、自民党政権が増やし続けた原発をさらに14基増設することを閣議決定したのが、ちょうど1年前の6月18日。今回の惨劇を経た今も原発推進をやめようとしない官僚に阻まれ、菅民主党政権はその見直しにさえ手間取っている。このままいけば、日本は68基もの「核の恐怖」に覆い尽くされることになる。
世界屈指の「地震列島」であり、常に津波の脅威にさらされる「島国日本」が、一方では世界有数の「原発列島」でもあるという状態は、悪い冗談のような現実だ。私たちは未来の子孫に対し、詭弁を弄することなくこの状態を放置し続ける理由を語れるだろうか。もはや「安全神話」も「低コスト神話」も、そして「必須エネルギー神話」さえも崩れ去った原発に残されたものは、それが極めて危険なものであるという事実だけだ。
※すべて雑誌掲載当時