※本稿は、谷川嘉浩『増補改訂版 スマホ時代の哲学 「常時接続の世界」で失われた孤独をめぐる冒険』(ディスカヴァー携書)の一部を再編集したものです。
何度も何度もSNSを更新してしまう理由
そもそも、なぜSNSは寂しさを加速させるのでしょうか。たくさんの人と一緒にいるはずなのに一人だと感じて他人を依存的に求めてしまうのはなぜでしょうか。この辺りの疑問を手に持って歩き始めましょう。
いいね、シェア、スタンプ、リプライなどといったリアクションがSNS上であるとき、私たちは、何か立派な人間になったと錯覚しますし、人から関心を持たれているという感覚になります。
でも、この安心感や自信の背後には不安がありますよね。止めなければと思っていても、何度もSNSを更新してしまうのは、たいてい拭いがたい不安があるからです。疎外の感覚を持たずに済むように、取り残される不安を覆い隠すように、いつもオンラインでいようとしている。
何かを見逃す、仲間外れになる恐怖
シェリー・タークルというMIT(マサチューセッツ工科大学)の心理学者がインタビューした一人の少女は、「仲間はずれになることや、何かを見逃すことも怖いから」SNSは常にチェックするほかないと語っています。でも、「Facebookがその恐怖をやわらげてくれる」。
この少女が抱いている恐怖には、Fear Of Missing Out(見逃す/取り残されることへの恐怖)という名前があります。この頭文字を取って「FOMO」と呼ばれることもあります。FOMOは、寂しさの別の呼び名だと思って構いません。
しばしば指摘されることですが、ネット上の話題にせよ、物理的なイベントにせよ、人気の食べ物やメイク、ファッションにせよ、話題の出来事に「居合わせること」の価値が高まっています。「居合わせる」とは、場所の共有ではなく、時間の共有を指しています。時間価値の高まりを指摘する各種の議論は、私たちの議論の方向性が間違っていないことの傍証になっています。

