96年のピーターパンコモコ(当時はコモコフード)を皮切りに、吉野家は京樽、はなまるなど複数の外食チェーンを合併・買収してきた。この10月には吉野家ホールディングスを設立して、グループ体制の強化を図る。

積極的にM&Aを推進する背景には、やはり、牛丼単品経営のリスクヘッジという思惑があるのだろうか。

「その発想は、90年代の後半から言っていることだから、もう久しい。ホールディングスへの移行は、むしろ僕らの理念を発揮するためのひとつの方法論です」

では、株式時価総額を膨らませることを狙った戦略だろうか。

「それも違います。うちは事業の経営をやっているのであって、株式時価総額を増やすことがトップ・プライオリティーではない。株式時価総額主義とは、一線を画しています」

安部社長の経営理念は明快だ。吉野家の事業は客に喜んでもらうためにある。その理念を同じくする仲間が豊かになるためには、利益を増やさなくてはならない。そして株価とは、あくまでもそうした事業活動に対する市場の評価であると。

「むろん時価総額は高いに越したことはないけれど、短期的に株価を上げようとは思っていない。われわれは長期的に株価を上げることに判断の軸を置いた経営を標榜するということです。もし、株主が短期的に株価を上げることを望むのであれば、僕らに経営をさせないほうがいい」

だから、吉野家のM&Aは“召し上げる”スタイルをとらない。あくまで、吉野家が培ってきたノウハウが相手にとって有効性があると判断できる場合だけ、M&Aに踏み切る。

「われわれと関わることで、相手のビジネスがさらに高まり、われわれもよくなることが必須条件。補完し合いながら有効にドッキングするということです」

同時に安部社長がこだわるのが、1社ワンブランド戦略である。買収した企業のブランド数を、極力絞り込んでいく。