ニューヨークをはじめとしたアメリカの主要都市で、歩行者の信号無視を合法化する動きが進んでいる。経済ジャーナリストの池田光史さんは「クルマ中心の街づくりをすればするほど企業も人も寄り付かず、経済的に豊かにならないということにアメリカは気付いた」という――。

※本稿は、池田光史『歩く マジで人生が変わる習慣』(NewsPicksパブリッシング)の一部を再編集したものです。

ニューヨークの道路
写真=iStock.com/peeterv
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アメリカは「歩きにくい国」

米保険会社Compare the Marketが2024年に発表した「世界で最も歩きやすい都市ランキング」のトップ10の中には、米国の都市が一つも存在しない。なぜなのか?

これに関しては、興味深いデータが存在する。世界経済フォーラム(WEF)によると、米国の主要35大都市圏には、徒歩で移動できる土地面積そのものが、わずか1.2%しかない、というのだ。

なるほど、ここにきてメタが屋上にトレイルを作った背景が、さらに浮かび上がってくる(※)。米国はそもそも国全体が超車社会がゆえに、世界的に見ても極めて「歩きにくい国」なのだ。

(※)メタは2018年までに、自社の屋上に9エーカー(東京ドーム1個分)の遊歩道を作った。

米国の都市プランナーで、ベストセラー本『ウォーカブルシティ入門』の著者でもあるジェフ・スペックは同書の中で、こう指摘している。

今世紀半ば以降、意図的なのか偶然なのかはともかく、アメリカのほとんどの都市が事実上、歩行禁止区域になってしまった。

「歩きやすい街」ほど経済的に発展している

かたや驚いたことに、この1.2%の「歩ける街」が生み出すGDPは、米国全体の20%を占めている。だからこそ、WEFの言葉を借りれば、こうした歩きやすい街はまさに「エコノミック・エンジン」なのだ。

具体的には、この1.2%のエリアはニューヨーク、ボストン、ワシントンD.C.、シアトル、ポートランド、サンフランシスコ、シカゴ、ロサンゼルスなど、主に沿岸部の知識経済に依存した都市に集中している。

つまり、米国全体としては「スムーズな自動車交通」や「十分に確保された駐車場」を重視してしまった結果、ほとんどの都市において、ダウンタウンが「車ではアクセスしやすいが、行く価値のない場所」になってしまったということだ。これは、日本の郊外でも概ね事情は同じだ。