子どもも先生も苦しめる「家族モデル」

【苫野】でも家族モデルって、子どもも先生もしばしば苦しめるんですよね。「なんで赤の他人と運命共同体にならないといけないんだ。一致団結しないといけないんだ」と感じている子はたくさんいるし、先生は先生で「性格が合わない子がいても愛さなくてはいけないんだ。問題が起きたら『親』である自分のせいなんだ」と感じてしまう。

【工藤】そう。真面目な先生ほど苦しむ。でも、学級が家族のような集団であるべき合理的な理由なんてひとつもないですからね。

【苫野】それで工藤さんは、麹町中では固定担任制を廃止され、複数の教員で一学年すべての子どもたちの面倒をみる「全員担任制」を導入されましたね。

【工藤】固定担任制の廃止は、もちろん子ども主体の学校づくり、民主主義を意識してのことですが、実際は学級崩壊を食い止める緊急事態的なタイミングでやったことです。

ある意味、学級崩壊がいいきっかけとなったわけです。

【苫野】そうだったんですか?

日本の学生ののスクール形式
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「人気のある教員」がいる学年は学級崩壊が起きやすい

【工藤】僕が麹町中に赴任した1年目は、1年生の4学級のうち2学級が学級崩壊していたんです。2年目も4学級のうち2学級が崩壊。そして3年目は4学級のうち3学級が崩壊したんです。かなり深刻ないじめがそこら中で起きていました。

3年目で最初に学級崩壊していたのは1学級だけだったんですけど、次にもう1学級が崩壊して、ある程度安定していた学級も引きずられるように状況が悪くなった。僕はこの状態をどうにかしないといけなかったので、学級崩壊を引き起こす大きな要因のひとつを「外科手術的」に取り除かなければならないと思ったんです。その要因は何かといったら、学級崩壊を起こしていないダントツにすばらしい学級担任の存在でした。優れた担任が逆に他のクラスの崩壊を誘発させるというんですから、変な話ですよね。

突出して人気のある教員がいる学年は、学級崩壊が起きやすいんです。

なぜなら子どもたちが「与えられる教育」に慣れてしまって、教員に依存し、比較ばかりするからです。「あのクラスはいい先生がいるな。それに比べてうちは……」とうまくいかない原因を自分たちに向けずに学級担任に向ける。

担任も担任で、自分の学級がうまくいかないと自信を失う。それも仕方のない話で、隣の席の教員が「お前のクラス、落ち着きがないな」とわざわざ言うわけです。すると焦る教員の気持ちが子どもたちに伝染して、さらに荒れる悪循環に入ります。学級崩壊が起こるひとつのメカニズムです。